諒(1)

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諒(1)

 今年も暑い夏がやってきた。  美春が海老貫トンネルの崩落事故に巻き込まれてこの世を去って、もうすぐ八年がたつ。  幽霊が見える俺は、一緒に事故にあった近くの鉱山の作業員たちの最後の願いを、美春の助けを借りてかなえた。  まさか美春も死んでるなんて気づきもせずに。  必ず戻ってくると言い残して空にのぼった美春を、何十年でも待つと決めたはずなのに、たった八年でそんな日は来ないんじゃないかと、不安になっている自分が情けない。  今世で無理なら来世も待つと誓った気持ちに変わりはないが、寂しさがこみ上げてくる。  お盆休みに入ると猫のミハルの様子がおかしくなり、そばに美春が来てるんじゃないかと感じる。  いつもは気の向くままに出かけて、なかなか家にいないミハルだが、夏は気がつくと膝にいる。  見える俺でも、一度この世を去った人が戻ってきた場合は見えないようで、美春が本当に来ているのかは確認しようがない。  できれば、いつ戻れそうか教えてもらいたいのだが、そういうわけにはいかないのだろうか?  せめて夢の中で会いたいと思うのに、美春はあの日から一度も夢にさえ現れてくれない薄情者だ。
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