私の道

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 今歩いている道は、その時のジョギングのコースと同じだ。そして、彼を殴った場所は、もうすぐそこだ。まさか彼がまだ倒れているということはないだろう。そう思ったとき。  やっぱり来たね、と声が聞こえた。驚いて私は振り返る。木の陰から、彼が現れた。生きていたの、と声にならない声で、私は尋ねる。  彼はそれに答えずに、微笑んだ。私の嫌いな、目の笑っていない、微笑みだ。ただ。よく見ると、彼は頭から血を流している。私が石で殴ったところだ。きっと、これは、本物じゃない。幽霊、というか、ただの幻だ。ギュッと目を強く閉じる。それからゆっくりと目を開けると、彼は消えていた。けれど。消えていたのは彼だけではなかった。景色もまた消えてしまっていた。  次第に焦点が合ってきて、それと同時に肌に感触を感じて、私は自分が地面に倒れているのに気づいた。何か吐き捨てる様な声が聞こえたけれど、何を言ったのかはわからない。ただ、それが彼の声であることだけは分かった。  そして、彼が逃げるように離れて行くのがうっすらと見えた。ぼんやりとだけれど、ジョギングの時の服装だ。彼が生きていたのが幻だったのではなくて、私がさっきまで見ていた、道の景色の方が幻だったのだ。私は、計画に失敗して、自分が殴られてしまったのだ。  戻った意識が再び薄れていく。私はこれから、どうなるのだろう。助かるのだろうか。助かりたいのだろうか。もし私が助からなければ、彼は捕まるだろう。私は、彼に苦しめられたことを、日記に書いている。それが世間に公表されたら、彼は終わりだろう。それはある意味で、私の希望通りだ。でも、それでいいのだろうか。ああ、私の道は、どこにあるのだろう。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!