私の道

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 私はこの道を歩いて行く。この道の向こうに、彼が眠っているからだ。いや、正しくは眠っているはずだからだ。  私は彼を殺した。そして、そこから逃げた。夜中だったから周りに人はいなかったし、普段から人通りの少ない道だったけれど、さすがに朝になれば彼は発見されるだろうと思っていた。それなのに、それから二日たっても、その事件はニュースになっていない。実は彼は生きていたのかもしれない、とも思ったけれど、それはないだろう。私はしっかり確認したのだ。確認できるくらい冷静に、彼を殺してしたのだ。そのはずなのだ。  私の計画は、こうだった。深い理由はなく、ただの喧嘩で衝動的に殺してしまう。そして混乱して逃げてしまう。けれど、しばらくして反省して、自ら出頭する。そんなふうに見せかけたかったのだ。というのは、彼を殺したこと自体は知られてもかまわなかったし、むしろ知られたかったのだけれど、そこに計画性はなかったのだということを表現したかったのだ。  私は彼のことが好きだった。でも彼は、ひどい人だった。彼のせいで私の生活はめちゃくちゃになってしまったのだ。もちろん、別れればよかっただけの話ではあるのだけれど、彼は別れてくれなかったし、私も、どこかで彼を信じようとしていた。  そして何より苦しかったのは、彼は表面的にはいい人間を装っていて、彼の本当の姿を知らない周りの人達は皆、彼のことを尊敬し、いい人だと言うことだった。私がどんなに彼のひどい行動を周りの人達に伝えても、信じてもらえなかったり、私の考えすぎだと思われたりしてしまった。そしてそうした時間が積み重なるうちに、いろんなことが耐えられなくなってしまったのだ。  彼さえいなくなれば、と思ってしまったのがきっかけだった。彼をいなくしてしまえば、明らかに私が疑われるだろう。周りの知り合いは私よりも彼のことを信じているし、私が彼のことを不満に思っていることも知っている。いや、むしろ捕まってしまう方がありがたい。そうすることで私がどれほど苦しんでいたのかを、周りの人達に、知らしめるのだ。ただ。捕まるなら、せめて衝動的な行為だったということにしたい。計画的なものだったと見なされるよりはその方が、いいだろう。そんなことを思ったのだ。  歩きながら、その日のことを私は振り返る。彼は週に数回、夜のジョギングをする。私はそれに誘われたのだ。恋人と一緒にジョギングしている所を、よく顔を合わせる人に見せて紹介したいということだった。そういうふうに表だけよく見せるのが彼の性格なのだ。その日がチャンスだと思った。私はジョギングのコースを聞いておき、昼間のうちに、私がいい感じに持ち上げられて凶器にもなりそうな石を探し、コースの途中にそれとなく置いておいた。よく顔を合わせる人というのが、どの辺りで遭遇するのか分からなかったから、できるだけコースの終わりの方に置いておいた。  そして。その夜、その人に挨拶をした後、更にジョギングを続け、石が置いてある辺りで、苦しくなったと言って、ジョギングを止める。彼が私を気にして一緒に止まるだろうということは想像がついていた。彼は外ではそういう気配りをする人なのだ。そして、隙を見て石で殴った。それは案外あっさりと終ったのだ。
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