風見鶏の使命

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目の前には女性?が立っていた。 女性と呼んでいいのだろうか?自分と同じ生き物ではない気がした。 凛とした瞳。少し傾けた顔、りんごを持ち差し出した右腕、腰にあてた左腕の角度も全て完璧だ。それぞれの体のパーツが、この太さ、この長さ以外あり得ないというかのように、完璧な形を成している。 少し首を傾けたせいで後ろで揺れている髪は綺麗に揃った動きを見せ、白に近い金色が1本1本輝き後光が差している。 今まで見てきたどんな姿の神よりも神だった。 「おい、大丈夫か?」 たった数秒で人生最大の衝撃を味わっていると、女神から再び声が降りてきた。 瞳は丸さを増し、不思議そうにこちらを見ており、反対側に首を傾けてくれたお陰で、後光を浴びた金色の髪が再び揃って揺れる。 なんとかいつもの自分を取り戻し答える。 「ええ。りんごを拾ってくださったのですね?ありがとうございます。坂を転がっていったので諦めていたのですが」 こんな時でも張り付いた笑顔は健在だ。 「すごい荷物だな。引っ越しか何かか?」 女神は、女神とはこうであろう等という陳腐な思考を吹き飛ばし、男らしい口調で話しかけてくる。 「いえ、実は旅に出ようと思いまして。特に目的地も何もないのですが。とりあえず自分にはもう必要ない物を坂の上にある孤児院に持って行こうと思いまして」 そう言うと、少しの間荷物を見ていた女神が、 「ふっ。お前、優しい奴なんだな」 と笑った。 それはありきたりな言葉。おそらく他の者達にとってはそうだろう。けれども自分には、お世辞や社交辞令ではなく、本当にそう思ったからそう言った。 そう見えた。 「教会の人間だったもので。私が個人的に始めたことではないのですが」 心から誉められたようで、慣れない感覚を感じながらそう答えると、 「そうじゃない。お前は不要になった物と言ったが、それ以上にわざわざ市場で買った物が沢山あるだろう?どんなきっかけで始まったにしても、お前は旅立ちの日に、時間を割いて坂を登り、これを届けようとしている。それはお前の気持ち以外の何ものでもない。だから、そんな気持ちでこうして坂を登っているお前は優しい奴だろう?」 そう言って、少し可笑しそうに、嬉しそうに笑っている。 自分が優しい? そんな風に思ったことはなかった。 神に仕えながら神を信じることが出来ず。 教会や信者達のおかげで不自由なく暮らせているのに、本当の自分を隠し、神を信じているという偽りの自分で、張り付いた笑顔で、わざとらしい丁寧な口調でずっと騙して生きてきたのだ。 優しい 何度も言われたことはある。けれども、こんなに内に入ってきた“優しい”は始めてだった。 胸の内側が熱くなる。感情が溢れて涙まで出てきそうだ。 すると、 「大丈夫か?坂の上まで行くんだろう?手伝ってやろう」 なんと、女神の口から信じられないような言葉が発せられた。
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