風見鶏の使命

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目を開き、少し後ろで止まっている女神を振り返ると、先程までの後光は消えていた。 代わりに、一定の周期で眩しい光が当たる。 よく見ると、くるとくると風見鶏が回っており、それに陽の光が反射して光っていたようだった。 「すごい風だったな」 と言った女神は、先程までの後光を失い、綺麗な髪は垂れ下がっている部分と肩にかかっている部分に不揃いに別れ、凛とした瞳は閉じられてゴシゴシと乱暴に擦られている。 ……だが、何故だろう?後光を失い完璧ではなくなった彼女は、先程までと変わらず神々しさを失ってはいなかった。 揃えられていない髪 閉じられた瞳 女性らしくはないしぐさ では、一体自分は何を見て女神だと感じていたのだろう? 完璧に陽の光を当て続けていた風見鶏は、あらぬ方向を照らしている。 彼女の後ろには、いびつな形の雲達に切り取られた青空。まだ登り切っていない太陽。不定期に定まらない場所で光る海の水面。 「どうした?何か忘れ物でも思い出したのか?」 目を擦り終えた彼女が、不思議そうに聞いてくる。 忘れ物…という言葉が合っているのだろうか?忘れていた? いや、気付いてなかったのだ。 今まで何度も登って来た道。 何度も見下ろして見た風景。 今日の雲が空が海が特別綺麗なわけではない。 坂の両側の建物もいつものままだ。 なのに、まるで違う風景のようだ。 今まで、いや、さっきまで、何故ただの風景だと思っていたのだろう? もちろん、綺麗かそうでないかの識別が出来ないわけではない。 この穏やかに晴れた風景が綺麗なのは理解している。 けれども、そうではなく、全く違う感覚の“綺麗”を感じるのだ。 白い雲は1つとして同じ形を成しておらず、作ろうとしても不可能な美しさを表し、それを携えた青空もまた時を刻む毎に、様々な表情を表し、強すぎる暑さを抑えながらゆっくりと温かく照らす太陽は、雄大な水面に星々を散りばめている。 こんな感覚は初めてだ。 一度それに気付くと、全ての物が存在を表していることを感じ始める。 ただ在るのではなく、そこに存在しているという感覚。 「こんな感覚は始めてだ」 ポツリと口から出た言葉に彼女が反応する。 「どんな感覚なんだ?なんだかすごく幸せそうだぞ?」 と嬉しそうに聞いてくる。 ぼーっとした頭のまま、感じているものをそのまま伝える。 「世界が変わったようだ。まるで見え方が違う。そんなはずないのに、見る物全てが凄く綺麗だ」 ぼーっとしながらも、可笑しな事を言っているなと自分で思う。 「ふ~ん?何で変わったんだろうな?でも綺麗になったのなら良かったな!」 そう言って後光を失った彼女は、太陽のように笑った。 何で? あの時急に吹いた風のせいか? いや、確かその前に… 「ああ。それはいいな。自分が本当に大切に思える物を見付けられたのなら、大切にするべきだ」
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