風見鶏の使命

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そうだ。 あの一言で世界が止まった。 そして、まるで今までの自分の考えを吹き飛ばすような風が吹き、気付くと世界は変わっていた。 自分だけが馴染めない居心地の悪さ いつまでも感じることの出来ない信仰心 それら、周りとは違うあらゆる事は、自分の考えが、感情が、狂ってるのだと思っていた けれど…そうではないと 自分が好きなものを好きだと言って良いのだと 周りとは違っていても罪ではないのだと 彼女の一言は言ってくれたようだったのだ 体の奥底から暖かい感情が沸き上がってくる。 自分では制御しきれないこの感情は、感謝なのか、幸せなのか。言葉では言い表せない気がした。 どう表現すればいいのだろう? なんと言えばこの溢れ出る感情を浄化出来るのだろう? 何処に解き放てばいいのだろう? ああ…そうか こんな気持ちの時、人は神を感じるのかもしれない 自分ではどうにも出来なかったこと あり得ないような偶然が重なり奇跡が導いてくれた時 神というものに人の言葉だけでは伝えられない気持ちを伝えて浄化させるのかもしれない なんということだろう 教会を去り初めて、神やそれを信じる者達に、ほんの少しだけ近づけた気がした 空を見上げて深く息をする。 生きている。何だかそんな風に感じた。 「なんだかわからんが、ずいぶん気持ち良さそうだな」 歩き出しながら相変わらず楽しそうに話しかけてくる。 この人は、たった今自分の世界を変えてくれた等と微塵も思っていないのだ。 教会を去ると決め、今日この日を旅立ちの日と決め、今この時にこの人と出会えたこと。 全て意味を成し、全てに感謝する。 「今日あなたに出会えたことで、これからの人生がとても楽しみなんです」 心からの笑顔でそう答えると、 「まあ、誰でも旅立ちは不安だからな。人としてどうかは置いておいて、頼もしさだけは保証付きの奴等だから安心しろ」 と、的外れな優しい言葉が返ってきた。 「はい!心強いです」 そう言ってそろそろ近づく坂の終着点を前に聞いてみる。 「あの、私はカイザルと言います。あなたのお名前も教えていただけますか?」 「エレンだ。これからよろしくな!カイザル」 ああ、彼女によく似合う、女性らしく高潔な名前だ。 「ええ。こちらこそよろしくお願いします」 どうかこの、自分の世界を変えてくれた高潔な方との旅が少しでも長く続きますように…
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