4. 花の都

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 結局この店では何も買わないまま出た。何店舗も回ったと言うのに、買ったのは精油をいくつかだけだった。そろそろ暗くなってきたので食事をする店へ向かう途中、気になっていたことを聞いてみる。 「ねえ、そのローブの下に着ているドレス、もしかして以前お茶をした時に着てきた物かしら?」  ローブの隙間から見えている水色のドレスに見覚えがあった。 「はい、そうです」 「そのドレスってスカートの裾がもっと長くなかったかしら?」  フローラの記憶が正しければ、裾を引き摺るタイプのものだったはずだ。それが今は、足首が見えるくらいの長さになっている。 「裾が擦れてボロボロになってきてしまったので、詰めたんです」 「え? 詰めた??」 「ええ、切って縫えばまだ着られるので。セフィロス様に頂いて、お気に入りなんです」  ......切って詰めるって、庶民じゃあるまいし信じられない。  布というのは高価なので庶民は普通、古着を買ったり、多少傷ができても直して着る。使われる布の品質もそうだが、量も少なくするために丈が必然的に短くなる。  高品質の布を贅沢に使った服を着るというのはつまり、富と権力の象徴でもある。  アイリスの着ている服の布地は当然、かなり上等な物だと分かる。それを直して着続けるなんて、ますます理解し難い。
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