種をまく旅人

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 ガラス玉のような目をした転校生がやってきた。担任の先生の後について教室に入ってきた彼は色白でとてもハンサムで、バスが二時間に一本しか来ない田舎町だったから、学校中が大騒ぎになった。クラスの女子が「ハーフじゃない?かっこいいねぇ」ときゃあきゃあ騒ぐのを、男子たちは面白くなさそうに見ていたけれど、転校生はそのうちクラスに馴染むことができた。絵がとてもうまかったからだ。  自慢じゃないけど、僕のクラスには意地悪な子がたくさんいた。さっそく、いけすかない転校生を「シュクセイ」しようと、ガキ大将のてっちゃんが張り切りだした。  ある日、てっちゃんは「ちょーしにのってんじゃねー」と言って、彼の机に消しゴムを投げつけた。消しゴムはバウンドして転校生の椅子の下に転がった。床に落ちた消しゴムを転校生は黙って拾うと、いきなり紙に何かを書き出した。彼のおかしな行動を、みんなはただただ見守ることしかできなかった。彼は目にも止まらぬはやさで鉛筆を動かすと、瞬く間に白い紙の上に「消しゴム」が現れた。てっちゃんが投げつけた消しゴムとは別の、転校生によって描かれた消しゴムだ。その消しゴムは、本当に触れることができそうなほど、紙から浮き出ていて、立体的に見えた。「すげえ」と思わず、てっちゃんの取り巻きの一人がつぶやいた。転校生はそれ以来、周りから一目置かれる存在になった。
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