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国語の時間、クラス全員で一行音読をするという時間があった。案の定、矢島君は一年生で習うような漢字も読めなかった。てっちゃんと何人かが顔を見合わせて意地悪そうに笑う。
「指と一緒に脳みそもどこかにおいてきたんじゃね?」
「ヤジーはショーガイだからしょうがない」
先生には聞こえているかわからないほどの小声だったけれど、僕にははっきりと矢島君の悪口が聞こえた。矢島君の方をちらっと見ると、音読を終えた彼は目を大きく見開き、食い入るように黙って教科書を見つめていた。
「なんであんなひどいことを言うの?」
休憩時間になった途端、転校生は席を立って、つかつかとてっちゃんの席に向かった。真っ正面に立った転校生をてっちゃんは机に頬杖をついたまま、めんどくさそうに見上げる。
「なにが?」
「さっきの授業中の発言のこと。どうして人のことを平気でバカにするの?」
転校生は恐れを知らず、淡々としていた。てっちゃんはせせら笑いを浮かべて「だって、アイツばかじゃん」と言った。
「一生懸命やっている人を馬鹿にするのもおかしいし、人の容姿に関することを言うのもおかしいと思う」
転校生は毅然とした態度をくずさなかった。
普段てっちゃんとつるんでいて、さっき一緒に悪口を言っていた子達も二人のバチバチな雰囲気に気圧されている。僕もはらはらしながら、でもなんとなく、ほおっておくこともできなくてロッカーに物を置くフリをしながら彼らに近づき、転校生の少し後ろに立つ形で見守った。
「きもちわるいんだから、しょうがないだろ」
「どうしようもない見た目に関することをきもちわるいって言われたら傷つくだろ」
「俺は傷つかない」
「坊主がきもちわるいって言われても?」
ずっと冷静だった転校生の内に秘めた怒りが表に出た瞬間だった。そこでてっちゃんもかっとなった。
「てめえの白い目もきもいんだよっ!」
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