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誰に相談しても、そんな声は聞こえないと一笑されるばかりだ。だから、思い切って今日はクラスメイトに一緒に帰ってもらうよう頼むことにした。
クラスメイトと歩いている間、不思議と呼び掛ける声は聞こえなかった。奏流はやはり気のせいだったのだと安堵していたが、クラスメイトと別れた直後にそれは起こった。
「おーい」
聞こえた。
ほんのすぐ耳元で。
驚いて声を上げそうになった奏流をクラスメイトは振り返って見ていた。けれど、彼女が不思議そうに首を傾げていたことから、おそらく何者もそこにはいなかったのだろう。
いったい声の主は何者なのか。
すべて奏流の幻聴なのか。
わからない。わからないが、声は着実に奏流との距離を縮めていた。
奏流は踵を返して駆け出した。内臓が跳ねる。学生鞄が右に左に大きく揺れ、もっと早くと彼を急かしていた。
「おーい」
「おーい」
声が追い掛けてくる。
「おーい」
「おーい」
男の声が、女の声が、子どもの声が、大人の声が。
そして、たった今別れたばかりのクラスメイトの声が。
今や、奏流は確信していた。これは定命のものの仕業ではない。幽霊だか超常現象だか知らないが、何か得体の知れない危険なものが、悪意を持って彼を追い掛けているのだ。
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