2.狗神

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「要領を得ないわね」  瑞月は苛々と腕を組んだ。 「質問を変えましょう。あなたは私の父の死について、何か関りがあるのかしら?」 「ある」  瑞月はハッと息を呑んだ。 「あるの? 何かを知っているのね?」 「知っているとも。俺様の前の主人は、他ならぬアイツだったからな」  そう語る朔はどこか楽しんでいるように見えた。瑞月は口の中に苦い味が込み上げるのを感じ、無理にそれを飲み下した。 「教えて。父は何に殺されたの?」 「答えられない」 「なによそれ。私はあなたの主人なのでしょう? 命令に従いなさい」 「勘違いするな。俺様は奴隷ではない。お前たちが怪異を退治せんとする限り、お前たちの剣となり盾となり戦おう――それだけだ」 「怪異」 「妖怪、妖、化け物、怪物……呼び方はなんでもいい。定命の理から外れたモノたち――俺様のような者たちのことだ」  その言葉に瑞月はひとつ合点がいった。田辺を襲った姿なき獣。あれを定義するなら、怪異という言葉が最もしっくりくるだろう。であれば、父を殺した真犯人も。  瑞月は黙って朔を見つめた。その視線に感じるものがあったのか、彼も無言で視線を受け取める。 「わたしは怪異なんかと戦うつもりはないわ」 「ならば、死ね。それが契約だ」 「……なるほど。そういうことなのね」  瑞月は立ち上がり、部屋を出て行こうとした。 「どこへ行く?」 「どこでもいいでしょう、ここは私の家よ」  それから、と彼女は朔を振り返った。 「契約を結んでしまった以上、私もあなたの要求に従うわ。その代わり、あなたもできる限り私の要求に応えなさい」 「例えば?」 「言葉遣い。その横柄な物言いは不愉快よ。改めて」  彼女はそう言って部屋を出て行った。
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