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「要領を得ないわね」
瑞月は苛々と腕を組んだ。
「質問を変えましょう。あなたは私の父の死について、何か関りがあるのかしら?」
「ある」
瑞月はハッと息を呑んだ。
「あるの? 何かを知っているのね?」
「知っているとも。俺様の前の主人は、他ならぬアイツだったからな」
そう語る朔はどこか楽しんでいるように見えた。瑞月は口の中に苦い味が込み上げるのを感じ、無理にそれを飲み下した。
「教えて。父は何に殺されたの?」
「答えられない」
「なによそれ。私はあなたの主人なのでしょう? 命令に従いなさい」
「勘違いするな。俺様は奴隷ではない。お前たちが怪異を退治せんとする限り、お前たちの剣となり盾となり戦おう――それだけだ」
「怪異」
「妖怪、妖、化け物、怪物……呼び方はなんでもいい。定命の理から外れたモノたち――俺様のような者たちのことだ」
その言葉に瑞月はひとつ合点がいった。田辺を襲った姿なき獣。あれを定義するなら、怪異という言葉が最もしっくりくるだろう。であれば、父を殺した真犯人も。
瑞月は黙って朔を見つめた。その視線に感じるものがあったのか、彼も無言で視線を受け取める。
「わたしは怪異なんかと戦うつもりはないわ」
「ならば、死ね。それが契約だ」
「……なるほど。そういうことなのね」
瑞月は立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「どこへ行く?」
「どこでもいいでしょう、ここは私の家よ」
それから、と彼女は朔を振り返った。
「契約を結んでしまった以上、私もあなたの要求に従うわ。その代わり、あなたもできる限り私の要求に応えなさい」
「例えば?」
「言葉遣い。その横柄な物言いは不愉快よ。改めて」
彼女はそう言って部屋を出て行った。
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