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瑞月が向かったのは例の離れの物置だった。引き戸を開けるたびに異様な空気に気圧される。その一方で守られたような安心感があるのは、きっとここに貼られたすべてが魔除けの札だからであろう。だからこそ、田辺はこの部屋に逃げるよう言ってくれたのだ。
気になることは沢山あった。考えるべきことも、沢山。それは肉親を失ったばかりの瑞月には少々荷が重い。
「お父さん……」
祭壇の前に座り込み、ぼんやりと壁を見上げる。壁には銅鏡が掛けられており、濁った表面に薄っすらと瑞月の影を映していた。
と、その下からはみ出した白いものに目が留まる。膝立ちになって引っ張り出すと、それは封筒であった。
『瑞月へ』
心臓がドキリと跳ね上がる。それは見慣れた父の筆跡だった。
同時に理解した。この部屋を用意したのは父だ。父は自分が何モノかに狙われることを知っていて――または、娘にもその手が及ぶことを察して――このシェルターを用意していてくれたのだ。
手紙を広げる指は震えていた。吐息までもが小刻みに。瑞月は再び床に座り込み、少しずつその文面を読み下していった。
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