3.こっくりさん

1/17
前へ
/53ページ
次へ

3.こっくりさん

「――というわけなんだよ。まさかこの時代に忠誠のキスを求めてくる奴がいるとは思わないだろう?」 「だっかっらっ! 私は握手のつもりだったの!」  ケラケラと笑う朔に瑞月が詰め寄っている。松野江奏流はそんな二人の様子を見て微笑んだ。 「すごいなぁ。仲良しなんだねぇ」 「仲良し? そんなわけないでしょう!」  瑞月からすれば、こんな風に自然と朔と打ち解けてしまっている奏流の方が謎だった。彼は超自然的な出来事に抵抗がないのか、朔の本性を見てもそこまで怯えはしなかった。 「だって、助けてくれたしね」  というのが彼の言い分だ。  ヤマビコから奏流を助けて以来、彼は学校でも事あるごとに瑞月に絡んで来るようになった。今も放課後に一緒に帰ろうと誘われ、分かれ道までの道中を共に歩いている。そこに朔が混じるのも、初回からすっかり恒例になっていた。 「じゃあ、朔さんは普通のご飯は食べないの?」 「必要ではないかな。怪異は存外腹持ちがいい」 「腹持ちの問題なんだ?」  などと言いつつ、分かれ道に差し掛かる。瑞月はここから駅に向かい、一駅分だが電車に乗るのだ。 「それじゃあ。また明日」  瑞月が声を掛けると、奏流は言いづらそうに上目遣いで彼女を見た。 「あのね、狛江さん。これからは、毎日は一緒に帰れないかもしれない」  そう言われた瑞月はきょとんとして彼を見返す。 「え? それは、まあ、当然でしょうけど……」 「千咲ちゃんに誘われてさ、文芸部に入ることにしたんだ」 「ああ、なるほど」  だからと言って、瑞月に謝りを入れる理由がわからない。彼女が怪訝な顔をしているのを、奏流は不満と受け取ったようだった。 「ご、ごめんね? 代わりと言ってはなんだけど、明日は一緒にお弁当食べない?」 「え」 「無理にとは言わないから! 考えといてね!」  奏流は耳を真っ赤に染め、それだけ言い残して走り去った。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加