3.こっくりさん

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 いよいよ瑞月に番が回ってきたが、質問したいことなど考えてはいなかった。咄嗟に捻り出そうとしてもさっぱり思い付かない――いや、思い付きはするのだ。口にすることが憚られるだけで。  父を殺したのは誰ですか。  そんなこと、みんなの前で訊ける訳がない。  それに、と瑞月は唇を噛む。  今さらそれを知ってどうしようというのだ。  復讐――犯人を見つけ出して、朔に殺してもらう?  だが、朔が敵わなかったからこそ、父は殺されてしまったのではないのか? その相手にもう一度挑んで、敵を討てる見込みはあるのだろうか。 『お、ま、え、の、う、し、ろ』 「え――っ?」  全員が顔を見合わせ、瑞月の背後を振り返る。そこには無人の教室が広がっているだけだった。 「どうし、て……」  全身が粟立った。瑞月が何も言えないでいるうちに、十円玉は『はい』の位置へ移っていく。  一瞬の間が空いた。誰もが異例の事態に困惑し、瑞月に回答を求めている。しかし、彼女にもどうしてこっくりさんが勝手に動いたのかはわからないのだ。  はじめに気を取り直したのは佐和子だった。彼女はさらに目を輝かせ、机の上に半ば身を乗り出している。 「こっくりさん、こっくりさん。質問にお答えください!」  嫌な予感がした。  遅かった。 「こっくりさんに失敗すると呪われるって本当ですか?」  禁忌(タブー)――こっくりさんにはいくつかの禁則事項がある。例えば、儀式の最中に手を離してはいけない、最後は必ず鳥居のもとにもどさなければならない、などだ。その中でも、もっとも恐ろしい結末を迎える禁忌が存在する。  それは、こっくりさん自身について質問すること。  瑞月はゴクリと唾を呑んだ。佐和子の質問は限りなくタブーに近い。はたして、こっくりさんの返答は。  なにも、起こらなかった。 「あれ?」  佐和子は拍子抜けしたように質問を繰り返す。すると、静止していた十円玉が物凄い速度で動き始めた。その軌道に秩序はなく、紙の上を滅茶苦茶に駆け回っている。四人は指を離さずにいるために立ち上がらなければならず、恐怖の眼差しで十円玉の動きを見守り続けた。
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