3.こっくりさん

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***  翌日、登校した瑞月は真っ先に奏流と千咲の無事を確かめた。  奏流は定期入れが見つかったのだと嬉しそうで、こっくりさんは本物だったと興奮気味に話している。けれど、千咲に好きな人の有無を訊かれると、耳を赤くして逃げてしまった。  昼休みを待って、瑞月は奏流に付いて来てもらい、佐和子のクラスに向かった。念のため、彼女の安否も確かめておくべきだと思ったのだ。ところが、教室を訪れた二人を迎えたのは、他のクラスメイトたちの怪訝な眼差しだった。 「あのぅ、佐和子ちゃんは?」  訊ねられた女子生徒は目を逸らしている。代わりに別の男子生徒が口を開いた。 「東なら、朝から保健室だよ」 「えっ。何かあった?」 「何かって……めちゃくちゃあったよ。なぁ?」  同意を求められて、女子生徒も頷いている。二人のただならぬ様子に、瑞月は嫌な予感がした。 「アイツ、一時間目の授業中に突然叫び出したんだよ」 「叫び出した? どうして?」 「知らねぇよ。でも、なんていうか普通じゃなかった」 「うん。吼えてたよね」 「それから教室の中を走り回って」 「机の上とかに跳び上がったんだよ」 「結局何人かで取り押さえて、先生が保健室に連れて行った」  瑞月と奏流は顔を見合わせた。  明らかに狐憑きの特徴だ。しっかり呪われているではないか。 「松野江くん、ちょっと」  瑞月は彼を非常階段へ連れ出した。他に見ている者がいないことを確認し、朔が姿を現す。 「朔、聞いてたでしょ? どうしたらいいか教えて」  彼女が詰め寄ると、朔は面倒くさそうに肩を竦めた。 「さあ? あの娘に憑りついているんなら、もう一度儀式をして帰らせるしかないんじゃないか?」 「こっくりさんを? 朔が退治することはできないの?」 「あー……」  そう言って彼はなぜか口を濁す。瑞月は眉間に皺を寄せた。 「食べられないのね」 「まあね」 「舌なめずりしてたじゃない」 「冗談だ」  何がどこまで冗談なのかわからない。瑞月はもういいと手を振った。 「やることはわかったんだから、榎本さんにも協力してもらって、もう一度儀式を終わらせましょう」 「そうだね。佐和子ちゃん、まだ保健室にいるかな?」 「行ってみましょう」  千咲も二つ返事で承諾してくれた。佐和子の異変には不安な様子を見せたが、今のところ自分には実害がないので安心しているのだろう。  前日用意した紙は佐和子が処分したはずなので、新たに紙と十円玉を用意する。三人は早速保健室へ向かった。
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