3.こっくりさん

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 佐和子はまだベッドに寝かされていた。保健医の言うことには、単なる一時的な錯乱だろうとのことだ。 「呪いなんだけどなぁ」  奏流がぼそりと呟やいたのを、幸いにも保健医は気付かなかったようだ。  佐和子のいるベッドはカーテンで仕切られていた。一応彼女も女子なので、気を遣って瑞月と千咲だけが中を覗く。 「東さん? 入るわよ」  佐和子は布団も掛けずに横たわっていた。  両目を限界まで見開いて。 「ひっ」  驚いて後退る千咲。瑞月が止めに入るよりも早く、佐和子は四つ足をついて立ち上がっていた。 「奏流くん!」  瑞月が叫ぶ。咄嗟のことに反応できるはずもなく、奏流は疾走する佐和子に突き飛ばされた。 「東さん! 待ちなさい!」  保健医の声がする。瑞月は後ろを振り返らず、急いで逃げた佐和子のあとを追った。  足には多少の自信があった瑞月だが、今回ばかりは敵わなかった。佐和子は明らかに身体能力が上がっている。結果、校門を出てすぐの交差点のところで見失ってしまった。 「こ……狛江さん……」  やっとのことで追い付いた奏流と千咲。二人とも上履きのままだ。 「佐和子ちゃん、どこ行っちゃったんだろう? うちに帰ったのかな?」 「だといいけど……」  瑞月は二人を伴って下駄箱へ引き返すと、自分だけローファーに履き替えた。そして、二人を見て言う。 「私が追い掛けるわ。二人は授業に戻って」 「えっ、でも」 「大丈夫。行き先の見当はついてるの」  嘘だ。だが、朔に辿らせれば見つけることは簡単だろう。そのことが奏流には伝わったのか、彼が千咲に頷きかける。 「わかった。狛江さんに任せよう。先生には僕たちから言っておくね」 「ありがとう。よろしくね」
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