3.こっくりさん

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 朔は校門の前で待っていた。塀に背をもたせ掛け、気怠そうにこちらを見ている。 「朔、東さんの居場所を――」 「見当はついているよ」 「えっ。本当?」  だが、朔は動こうとしない。瑞月は困惑して彼を急かした。 「じゃあ、案内してよ」 「本気で追い掛けるつもりなのかい?」 「当たり前じゃない。だって――」  その先の言葉を、瑞月は一瞬躊躇ったけれど。 「――東さんは、友だちだもの」  はっきりとそう言ったのだった。  朔はなおも物言いたげに瑞月を見ていたが、結局は彼が折れた。 「いいよ」 「ありがとう。お願い」  朔の姿が狼に変わる。瑞月はその背によじ登ると、鉄黒色の毛並みにしっかりと掴まった。  夜の獣が街を渡る。普段朔が姿を隠しているように、彼の背に乗っている間、二人の姿は常人には見えないようになっているようだった。だが、かつてヤマビコを追って御柘山に行った時とは違い、彼の足取りは急いでいるようには思えない。  何か、彼には気が進まないことがあるのだ――そのことが、瑞月の不信感を募らせる。  辿り着いたのは住宅街の外れにある神社であった。小高い丘の上に位置していて、道路から急こう配の階段が伸びている。朔は緩やかに速度を落とし、その階段に差し掛かろうとした。  ところが。  瑞月の体は空中へと放り出されてしまった。 「きゃっ」  咄嗟に石段に両手をつき、転げ落ちなかったのは幸運だった。両手の平には食い込んだ小石が小さな裂傷を作ったが。驚きを隠せずに振り返ると、朔は人間の姿に戻り、石段の一番下でパントマイムのように見えない壁を叩いていた。 「さ、朔?」 「狐狗狸の仕業みたいだね。瑞月、そこで待っていて。なんとか抜け道を探してみるから」  瑞月は躊躇わなかった。 「こらっ、瑞月!」  頂上の鳥居目掛けて階段を駆け上る。ふわりふわりと揺れるスカートを無意識に押さえた。
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