3.こっくりさん

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 突如、硝子の割れるような音が耳を劈いた。  重なるのは狼の咆哮。 「ちぇっ。やっぱり破られちゃったか」  狐狗狸が小さく呟いた刹那、彼は瑞月の頭上を飛び越えてきた狼によって、縁台へと組み敷かれていた。 「朔!」  瑞月が叫ぶ。朔は狼の姿のまま振り返った。 「遅くなって悪かった。コイツに何かされなかったかい?」 「してないよ。人聞きが悪いな」 「された。いっぱいされたわ」 「ちょっと!」  朔は狐狗狸の眼前で吼えたてた。狐の三角耳がぺたりと垂れて、狐狗狸は気圧されるままに狐の姿へと縮んでしまう。 「ううう。うるさいよ、吼えるだけが能の駄犬め」 「狐にできることはいつの時代も誑かすことだけなんだな?」  狐狗狸は朔の腕の下で身を捩り、這う這うの体で逃げ出した。朔は人間の姿に戻り、瑞月を守るように前に立つ。 「娘を返せ。でないと食う」 「やだよ。やめてよ。彼女なら勝手に連れてっていいから」  狐狗狸も再び人の姿で立ち上がる。彼が狩衣を翻すと、足元に横たわる東佐和子の姿が現れた。 「はい、どーぞ。それじゃ、さっさとここから出て行ってよね。犬臭くて敵わんわぁ」  彼がそう言って口元を押さえると同時に、瑞月の視界は暗転した。  
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