3.こっくりさん

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*** 「こっくりさん、こっくりさん。お帰りください」  放課後の教室に四人の声が響く。十円玉は『はい』の位置に移動したあと、緩やかに『ば、い、ば、い』の文字を経由して、鳥居へと戻っていった。 「ばいばいってことは、今度こそ本当に帰ってくれたんだよね……?」  千咲が不安げに手を揉んでいる。奏流はぼんやりと宙を眺めている佐和子の袖を引っ張った。 「佐和子ちゃん、佐和子ちゃん」 「ハッ!」  彼女は激しくおかっぱ頭を振り乱し、心配そうに見つめる三人を見回した。 「佐和子は正気に戻った!」 「安心して。佐和子ちゃんが正気だったことなんて一回もないから」  その後、三人によって変わりばんこに問診が行われたが、佐和子はいつも通りの彼女に戻っていた。駆けっこをしてみても、安定の鈍足である。 「よかった。本当にもとに戻ったみたい」 「もとにって言うけど、佐和子には何がなんだか全然わかんないままなんだよなぁ」  彼女曰く、憑りつかれていた間の記憶はないそうだ。突然授業中に突然眠くなってしまい、気が付いたら朔に介抱されていたという状況らしい。 「惜しいことしたなぁ。佐和子も本物の狐憑き見たかったーっ」 「見なくてよかったと思うけど。東さん、クラスでものすごい醜態を晒したってことわかってるの?」  瑞月がそう口を挟むと、彼女はにっかりとダブルピースで答えた。 「大丈夫! いつものこと!」 「何も大丈夫じゃないのよ」  念のため、佐和子はこのあと病院で精密検査を受けるらしい。どうせ申告したところで碌なことにはならないので、四人でこっくりさんをやったということは秘密にしている。 「それじゃ、また明日」  彼女は陽気に手を振って、一番に教室を出て行った。残された三人は、昨日と同じく誰からともなく鞄を取り上げる。
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