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「怪異に目を付けられるとどうなるの?」
「喰われる」
「……えっ?」
朔は穏やかに唇を弧に曲げていた。
「怪異にも色々いるが、今君に纏わり点いている『ソイツ』――仮にヤマビコと呼ぶけれど――ヤマビコは、最終的に君を喰おうとしているよ」
突然フードコートの雑踏が表情を変えたようだった。すべての視線が彼を狙っているように感じられ、奏流の額に冷や汗が滲む。
「で、でも、さっきお祓いみたいのしてくれたよね? 狛江さんが僕を助けてくれたじゃない。あれでもう――」
「残念だけど、あれは追い散らしただけで、根本的な解決にはなっていないわ」
「そんな……っ! じゃあ、どうしたらいいの? 今日は本当にすぐ傍で聞こえたんだ。もうすぐそこまで来てるんだ!」
「松野江くん、落ち着いて」
「だって!」
「そうさせないために、私たちが助けに来たのよ」
瑞月の声は凛として、不思議とその一言で奏流のパニックは鎮静化していった。奏流の潤んだ眼差しに、瑞月が力強く頷きを返す。
「……そうだ、さっきのは……?」
取り囲む声を追い散らした狼の群れ。
あれはいったいなんだったのだろう。
だが、彼が訊ねるのを遮るように、瑞月が質問を重ねた。
「狙われているのは君だけなのよね? 妹さんは大丈夫?」
「あっ、えっ? 妹?」
奏流は不安を表情に出す。
「あいつは何も聞いてないみたいだけど……妹も危ないの?」
瑞月は問うように朔を見る。朔は肩を竦めた。
「山で返事をしたのは君だけなんだろう? だから、狙われているのは君だけだ」
「今も松野江くんの近くにいるのかしら?」
「いいや? 最初から近くになんて来ていないよ」
「えっ」
奏流と瑞月は同時に声を上げた。
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