1.ヤマビコ

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「怪異に目を付けられるとどうなるの?」 「喰われる」 「……えっ?」  朔は穏やかに唇を弧に曲げていた。 「怪異にも色々いるが、今君に纏わり点いている『ソイツ』――仮にヤマビコと呼ぶけれど――ヤマビコは、最終的に君を喰おうとしているよ」  突然フードコートの雑踏が表情を変えたようだった。すべての視線が彼を狙っているように感じられ、奏流の額に冷や汗が滲む。 「で、でも、さっきお祓いみたいのしてくれたよね? 狛江さんが僕を助けてくれたじゃない。あれでもう――」 「残念だけど、あれは追い散らしただけで、根本的な解決にはなっていないわ」 「そんな……っ! じゃあ、どうしたらいいの? 今日は本当にすぐ傍で聞こえたんだ。もうすぐそこまで来てるんだ!」 「松野江くん、落ち着いて」 「だって!」 「そうさせないために、私たちが助けに来たのよ」  瑞月の声は凛として、不思議とその一言で奏流のパニックは鎮静化していった。奏流の潤んだ眼差しに、瑞月が力強く頷きを返す。 「……そうだ、さっきのは……?」  取り囲む声を追い散らした狼の群れ。  あれはいったいなんだったのだろう。  だが、彼が訊ねるのを遮るように、瑞月が質問を重ねた。 「狙われているのは君だけなのよね? 妹さんは大丈夫?」 「あっ、えっ? 妹?」  奏流は不安を表情に出す。 「あいつは何も聞いてないみたいだけど……妹も危ないの?」  瑞月は問うように朔を見る。朔は肩を竦めた。 「山で返事をしたのは君だけなんだろう? だから、狙われているのは君だけだ」 「今も松野江くんの近くにいるのかしら?」 「いいや? 最初から近くになんて来ていないよ」 「えっ」  奏流と瑞月は同時に声を上げた。
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