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ザワついた心は次から次に嫌な妄想を掻き立てる。
それでも、いつの間にか眠ってしまったようだった。
不意に目を覚ました奏流は、自身が酷く凍えていることに気が付いた。どうやら掛け布団がずり落ちていたらしい。掛け直そうと暗闇の中を弄っているうちに、もうひとつ嫌なことに思い当る。
テレビが消えているのだ。
動揺すべきでない、と気持ちを落ち着かせる。きっと知らぬ間に母親が起きてきて消したのだ。何もおかしいことなんてないじゃないか。
目が段々と暗闇に慣れ、薄っすらと卓上に置かれたリモコンを捉えた。ソファーの上から手を伸ばす。と、彼よりも先にリモコンに覆い被さる手があった。
手が。
顔を上げる。
『ソレ』は目と鼻の先にいた。
人型のシルエットには目も鼻もなかった。やけに大きな耳と、両の耳を繋ぐように引かれたしわがれた線。『ソレ』がぱっかりと口を開けると、顔のすべてが大きな洞のようになった。
声が。
「おおおぉぉぉーい」
呼ぶ。
「う、うわああぁぁぁぁぁ……っ!」
咄嗟に口を噤んでももう遅い。涙に滲んだ視界の中で、化け物の輪郭が変わっていく。『ソレ』は確かに笑っていた。
「やっと答えてくれたあぁぁ――……!」
枯れ枝のような指が奏流の顔面を捉えた。化け物の笑みに呼応するように、奏流の口が大きく開く。
彼は悲鳴を上げていた。声にならない悲鳴を。
その口の中に、化け物が頭部を差し入れる。凹凸のある湿った舌触り。吐き気を催す暇もなく、『ソレ』は奏流の中へと這い進んでいった。
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