全ての始まり

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全ての始まり

「か、彼女が本当に大量殺人事件を起こしたのですか?」 児童精神科の寮で響く医者の声。彼女の脳について調べるために、難解テストを用意した。これは、超難関私立校・二葉学園の過去問から引用した5問を印刷したプリントだった。 児童精神科の「長瀬裕太」は大ベテランの医者。 優しい口調と笑顔で更生させた児童は数千人に上る。 このような殺人を起こすものはみな、義務教育期間中あまり勉強をしていない子がほとんどでこのテストはたいてい解けない。 もちろん、大の大人でもほとんど解けないだろう。 裕太も頑張って3問、いや2問。そのぐらいのレベルだ。 だが彼女は違った。いくら梅ヶ丘女子中学校で優秀な3年生だったとしても。 この結果はおかしかった。間違えないないか、何回も入念にチェックした。 そのテストの得点欄には5/5と書き込んでいる。つまり、だ。 おかしい、おかしすぎる。 机に座っているのは、とても美しい顔立ちの少女が座っていた。 カンニングもしていないだろう。彼女は、義務教育期間ちゃんと勉強していたということだ。というより、真面目に勉強していても通るか通らないかの難関テストを満点は不可能だ。 結局、脳に異常はなく経った3ヶ月で社会に復帰した。 こんな子を出してはいけない。そうわかっていた。だが、寮にいるときも至って真面目でお手伝いもしてくれてさらにおとなしく、年下の子供にも目配りをしている。なぜか怖がられていたらしいが。 でも、できる限りのことは尽くした。確実に更生できたかはわからない。 けどある程度…変わったはずだ。 もう祈るようなものだった。「悪い意味」で有名にならないでほしいと。 彼女には素晴らしい頭脳に、運動神経、さらにはカリスマ性もあり将来、 絶対成功するような逸材。彼女が事件を起こすとはきっと何か問題が家庭内であったのかもしれない。できるだけ、自由にしていたつもりだが… 「今までありがとうございます、先生!短い期間でしたけど…」 門の前まで見送っていた、長瀬にそう伝えた彼女。 礼儀正しく、完璧な中学生。 明日は卒業式らしい。セーラー服を着て、卒業証書をもらう姿を想像するとつい、将来大物になると手を取るように分かる。 手を振りながら歩いていく彼女を見てそう思った長瀬。 彼女が住んでいた寮の部屋に行く。 ちゃんと片付けられていた。こんな狭いところで、苦しかっただろうに… 部屋に入って、ほこりを落とそうとした。 _綺麗に落ちていた。 やっぱり、彼女は完璧。そう思った。 ん? 扉の後ろにテープで紙切れが止められていた。 完璧でもこんな目立つ忘れ物なんかするか? その紙切れを取って開く。 「…え_?」 ずっと見つめてた。これは…どういうことだ? これは分かる。彼女が残しただ。 でも、なぜ? この瞬間全てを悟った。 彼女を完全には更生させることはできていない。 むしろ、ダメだったかもしれない。 この震える体を止めることはできなかった。 窓から外を見る。 _もう彼女は見えなかった。 「僕は、医者失格だ_!」 その場に崩れ落ちた。彼女を全て知った気になっていた。 「ですよね、先生。」 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。 「_え?もう行ったんじゃ_」 「私は、この3ヶ月間_縛られた生活をしていました。」 見下ろす彼女は、長瀬の言葉を中断して言った。 「あなたを消さなければ気が済まない。なので_」 見惚れてしまいそうな美しい笑顔で話しかけた。 「さよなら、先生。」 後ろに隠し持っていたのは_大きな石_。 頭に衝撃が走る。目の前はあっという間に真っ暗になった。 「先生のお姉さんによろしくです!」 明るく、とても元気な声が遠くに微かに聞こえた。 あぁ、そうだった_。 自由にさせていたつもりだったが、相当縛った生活をさせてた気がする。 たった1人の大切な姉「長瀬茉子」は彼女によって殺された。 しかも、同じ殺害方法で_。 姉も確か、石で頭を強打されて死んでいた。 結局…狂った少女・彩芽を何も更生させることはなくむしろ悪化させてしまった。そんな子を社会に出してしまった。 どんなに愚かなのだろう。 彼女の気配はなかった。もう行ったのかもしれない。 震える手を何とか動かした。 これが最後にできることだ。お願いだ、届け_! だが、その願いは虚しく_儚く消え去っていた。 彼女は、のだった。
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