キヨム

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キヨム

嵐の夜だった。 昼間から暗雲が立ち込めたせいで、夜の帳が下りても、眠さを感じない。 眠ろうと思えば簡単なのだろうが、布団に入る気になれなかった。 くうを寝かしつけたまま、遅番のイツルが帰るのを待っていた。 その縁側に、ふみがやってきた。 「今夜は外へは出ないほうがいいよ」 ガラス戸越しに外を差す。 言われるまでもないというふうに、ふみは肩をすくめて隣に座り込んだ。 「こういう日は本当に嫌だ」 ひとり置いていかれるのが嫌なのだろうか。 手に持った本を見下ろされる。 「読んでくれない?」 困った。 どうしてこんな暗い本など持っていたのか。 いや幸福な話は嫌いだと言われたんだった。 「潔君の読んでたとこからでいいから」 せめて嫌になったら我慢せず言ってほしいと思いながら、ボソボソと読み上げる。 ある男が癌に犯されて死んでいく話だった。 ふみを見下ろす。 身体を横にして目を閉じた彼女が、もしかして眠ったんじゃないかと錯覚するほどに、身体の力を抜いていた。 前髪が重力によって流れ、目元を覆う役を果たさなくなっていた。 深いクマのある下瞼と、上瞼はくっついていた。 言葉を止めると、パチリと目を開けた。 一瞬遅れて目を本に戻す。 「…眠ったと思った?」 遅かった。 「眠ってくれたらと、願っていた」 無意識だった。 決して叶うことのない、全く無意味な願いだった。 「おやすみ」 ふみは怒ったのだろうか。 身体を起こし、自分の部屋へ戻ってしまった。 僕の方が、置いていかれた気分だった。 ため息は。 「どうした」 イツルの声にかき消えた。
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