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ほぼ毎日のようにメールのやりとりをした。何度かどうでもいいことで喧嘩もした。でも、すぐに仲直りできた。「親友」だったから。恋人同士のように、お互いの領域に入り込みすぎることがなかったから。
東京で独り暮らしがしたかった私は、短大の二年間でいいから東京に行かせてほしいと親に懇願していた。
里中君は地元の東北大が第一志望ではあったけれど、とてもストレートで合格する自信がないと言っていた。もし東京の名門私大に合格したら、浪人しないでそちらを選ぶとも言っていた。私はそれが彼の本望であることも知っていた。
私は自分に許される進路の可能性の中で、常に里中君を意識していた。誰にも言えなかったけれど。
でも、結局、里中君は浪人した。東北大に行ってほしいという親の意向が強く、地元の大手予備校の本科生になった。私はそんな形で彼と離れることに失望しながら上京した。
離れ離れになったとたん、里中君は不安定になった。毎日のメールのトーンが少しずつ変わってきた。
「気が付いたんだ。僕は夏澄のことが好きだ。僕の知らないところで、夏澄がどんな奴らと出会って、どんな生活をしているのと想像するだけで、心が乱れて勉強なんて手につかない」
2日に一度は電話で話すように努力した。大好きな里中君を少しでも支えたかった。でも、高い携帯の通話料の現実と勉強の妨げになると介入してくる彼のお母さんの存在によって、私達がお互いの声で言葉を交わす機会は絶たれていった。
私達は無数のメールを交換した。毎日、毎日、そんなに私へのメールを「執筆」していたら、それこそ勉強する時間がなくなるのではないかと心配になった。
私のせいで二浪になった、なんてなったら、あのお母さんにどれだけ恨まれるだろうかと怖くなった。
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