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私は東京での新しい生活に夢中だった。出会う人、もの、街、出来事……すべてが刺激的で活力があった。ゴールデンウィークに仙台に帰ることなど考えもしなかった。交通費が馬鹿にならないこともあったけれど、里中君に会わなければならないと思うと憂鬱だった。
里中君からのメールはだんだん少なくなっていった。毎日だったのが、数日に一回、週に1回というように、私の気持ちが彼から離れていくのに比例して、その頻度は減っていった。梅雨に入る頃には、10日に一度くらい、短いご機嫌伺いが届くだけになった。
「返信はいらない、と自分でいったんだから、いいんだ。一方的でごめん。でも、これだけは伝えておきたいんだ。僕は君を愛している」
もし一年前にこのメールをもらっていたら、どれだけ嬉しかっただろう。でも、なぜだろう。私はただ冷めた思いでこのテキストを見つめた。
愛している――そんな大切な言葉を、彼はどうして簡単に使ったのだろう。
そんな言葉は、まだ出会わぬ運命の「誰か」が、大恋愛の末に最高のタイミングで言ってくれる言葉だと信じていた。
でもそれは今じゃない。精神不安定になっている浪人生の彼じゃない。
そんな冷たい雨のような感情が、彼が勇気をもって言ってくれたであろう言葉の灯を消すように静かに降り注いだ。
***
その夏、帰省した時に、里中君に会った。
お金がない私達は県庁前の勾当台公園で待ち合せた。
昔、中学時代からの仲間でお祭りや冬の光のページェントを見に行く時もいつもこの公園で待ち合せしていた。その頃から月日は経っているのに、公園の景色は全く変わっていない。見慣れた場所なのに、自分だけが浮いているような気がした。
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