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「もし、世界中に誰も味方がいないと悲しく思う時があったら、僕のことを思い出して。僕はいつだって君の味方だし、君のことが大好きだから。そのことを忘れないで」
「ありがとう」と笑顔で別れた。
私は振り返らなかった。彼がいつまでも私を見ているのか、すぐに背中を向けて歩き出したのか、知りたくなかった。アーケードの人並みの中を真っすぐに進んだ。
あちらこちらで七夕まつりの大きな竹飾りが取り付けられている最中だった。商店街のスピーカーからは遊佐未森のやさしい歌声が響いていた。
***
あれから15年が過ぎた。当時生まれたばかりだった従妹が中3になっている。私が里中君への片思いを募らせた年齢だ。月日の流れは残酷なほど年々加速しているように感じる。
ある日、仙台の友人たちから突然立て続けにメールやLINEメッセージが届いた。
「見た? 里中君、柳下幹彦文学賞取ったみたいだね。仙台の新聞や民放は大騒ぎだよ」
彼が神奈川にある大学を卒業して東京で就職したことは友達を介して知っていた。Facebookで公開されている情報から、今は横浜に住んでいるらしいことも知っていた。でも、顔写真は掲載されていなかった。東京で何をしているのかも、結婚しているかどうかもわからなかった。他に何ら情報はヒットせず、恐らくは一市民として静かに暮らしているのだろうと想像していた。
名のある文学賞を受賞した、ということは、これまでずっと書いてきた、ということだろう。
彼は夢を諦めてはいなかったのだ。どんな人生を歩んできたのか知らないが、あの頃の夢を実現させたのだ。
友達から送られてきたリンクに飛ぶと、受賞の知らせを受けて嬉しそうにインタビューに答える里中君―—作家・広瀬まひろの記事だった。
「この物語は失恋体験がベースになっているんです」
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