あの夏、定禅寺通りで 

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また彼に会えた。つまり、また彼の夢を見たのだ。私から「さようなら」と言ったのに、いまだに夢に現れる彼。 あの夏、定禅寺通りで別れた時に時間を巻き戻してほしいとは言わない。でも、せめてさっきまでみていた夢の中に戻してほしい。彼の愛を感じていたい。彼の夢から覚めた朝は、いつもそう思った。 ***  玄関で鍵をあける音がしてドアが開いた。夫が帰ってきたようだ。 何時だと思っているんだろう。もう明け方だ。それでも「泊りはしなかった」というのだろう。私は寝たふりを続けた。 結婚して四年が経った。夫の転勤に伴って北関東の地方都市で暮らして一年になる。 夫にはどうやら女がいるようだ。夫が引き出しの奥に隠し持っていたジュエリーのギフトボックスがいつのまにか消えていた。私の誕生日にプレゼントしてくれるのかと期待して気が付かないふりをしていたのに。 先日、私は33歳になった。実家の家族や友人からはメールやSNSでお祝いのメッセージが届いた。でも夫は私の誕生日が過ぎたことさえ気づいていない。  最近、里中君がよく夢に出てくる。その頻度の高さに戸惑っている。 お別れしてから15年間、幾度となく夢に登場してきた里中君。誰を好きになっても、誰と付き合っても、今の夫と結婚してからですら、私の潜在的な思いを自覚させるかのように、彼は時々私の夢の中に現れる。まるで、私の孤独や失望を察知しているかのように、絶妙なタイミングで現れては「僕は君の味方だ」と励ましてくれる。  里中君は、私の初恋の人だ。親友、でもあった。  
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