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「ろぉ!」
思わずさけんでしまった。ゴールに飛びこんで、もどってきたボールが私に向かって飛んできたからだ。思わず目をつぶり、頭をひっこめる。
けど、ねらわれたのは、アッコちゃんの顔面。ボールは顔の前のネットに当たって床に落ちる。よけるどころか、目すらつぶらなかった。
「工藤、だれだよそのおばさん! さっきからうるさくて試合に集中できねえよ!」
赤いほっぺ、太いまゆ、大きな目。まるで少年マンガの主人公みたい。どっちかといえばイケメンというよりはハンサムな顔だちで、ハマるお母さんたちが多いのも無理はない。
「おばちゃんはね、こういうもんだ」
そう言って、ジャージの左胸を指さす。深緑に朱色のエンブレム、ねぶたの上にはサッカー部が全国優勝した回数と同じ三つ星が刺しゅうされている。三回じゃない、三十回だ。
「……タムコーの人が、何の用ですか」
青森でサッカーをやっていて、田村高校を知らない人はいない。さすがに彼の態度もあらたまる。
「いや、みごとなゴールだった。まるでサーカスみたい」
手をポンポンとたたくアッコちゃんに、彼はいよいよフキゲンになる。
(だれよ、あの女)
(工藤さんちの子、あんなヨタモノのつきあいがあるの?)
(いやねぇ。これだから女子選手は。女の子がサッカーととか、ヤバンだわ)
……お母さんたちが、私のところまで聞こえるようなひそひそ話をする。身内がお茶当番をしない私へのお母さんたちの風当たりは、冷たい。
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