じゃわめき(ドキドキ)

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「泣くな!」  頭さ痛ぐなる大声で言われて、顔さ上げた。  顔は見えねかった。ユニフォームの中でモゴモゴと首を動かしてるのがわかる。右手、左手と長そでからにょきにょきと出た。  最後に首を出すと、前さ向いでまった。私から見えるのは背番号のない背中だけ、借り物のユニフォームが大きすぎて、短パンがすっぽりかくれてしまう。     まるで、ワンピースみたい。  笑ってまった自分におどろいた。さっきまで泣いてたのに。それに、さっきまでのかしゃぐしゃな気持ちも半分くらいにちっこくなってた。  (だー)かは知らね、その子は左サイドさ入った。縦に走る白い線さ踏むようにして、前に(あさ)いだり、後ろ向きで下がったり。ずっと相手のゴール方向を見てるはんで、私から見えるのは背中(へなが)だけ。けんど、なかなかそこにボールは出ね。  その子が、しびれさ切らしたのがわかった。白線をはなれ、パス回しをしている相手の足元さつっかけた。すべりこみながら出した左足がボールを取って、そのまま立ち上がるとドリブルさ始める。  (はっけ)る、走る、走る。ただでさえ小せかった背中があっという間に点みたいになる。  相手ゴール前にはその子よりより頭ひとつ大きな二人が待ちかまえている。まず一人につっかけると、ぐん! と(はえ)ぐなってぶち抜いた。入ったもう一人が腕で押さえつけにかかると、ばん! と肩をぶつけ、転ばせた。  キーパーがその子の足元にたおれこんで、その子ごとボールをかっさらいにいく。  体と体とがぶつかる、腹さひびくような音。  自分より一回りでっけキーパーの体当たりをはじき返し、最後は無人のゴールにボールばつきさした。なんと、あらげね(強引な)シュートだ。そしてそれによろこぶでもなく、転がってきたボールを拾うとこっちさもどってきた。早く試合を始めるために。
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