じょんばけっつ(大きなおしり)

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「一方通行や進入禁止ばかりでやっきりこいたわ」  弘前にあるフットサルコートは暖房が完備されていない。ユニフォームの上にジャージだけでは寒さをしのげないのでナイロン製のスラックス(歩くとシャカシャカ音がする、あれだ)をはいた両足をこすり合わせている。  五人制のサッカー、フットサル。私はボールが飛び出さないようコートにはりめぐらされたネットの外でベンチに腰かけ、アッコちゃんはその後ろでひとりごとをつぶやいている。  津軽第二の都市・弘前市はお城とそこで開かれる観桜会(かんごかい)で有名な城下町。そのせいで細い道が入り組んだ迷路のような作りをしており、初めて来るアッコちゃんをイライラさせた。  むしゃむしゃとほおばっているのは八戸(はちのへ)名物、鶴子まんじゅう。黒砂糖をこしあんでつつんだシンプルなおまんじゅうだけど、おいしい。 「……!」  いきなり口が止まり、胸をどんどんとたたき始める。私はジャグのボタンをおして、麦茶をそそぎ、紙コップを手渡す。 「だって口の中の水分、全部持ってかれたんだもん。こういうの津軽弁でなんて言うんだっけ。あ、むっつり!」 「むっつい、です」  できるだけ、小さい声で言った。 「それだ。口の中パサパサ、だと長ったらしいから、便利だよね」  そんないいもんではない。子供やお年寄りがのどに何かつめてたら、むっつい、とだけ言えばとりあえず水を持ってくる。それだけの言葉だ。
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