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「マザコンどもが」
アッコちゃんがはき捨てた。
「弁当くらいコンビニで買え。お茶がなきゃ自販機があるだろ。ママにたよらなきゃサッカーもできねえのか」
口に指を当てる。横一列にならべられたベンチの一番遠いところに座ってる監督に聞こえたらどうしよう。
アッコちゃんのヤバい発言が監督のところまでとどかなかったのは、今まさにチャンスが生まれようとしていたからだ。
「走れ!」
監督がさけぶと、ピッチ内にいる選手全員がダッシュする。外に出るようなパスであっても、ちょっとでもスピードをゆるめればどなられる。
右タッチライン付近で背番号10をつけた選手がボールを受ける。彼の前にぽっかりとスペースが口を開けている。他の黄色いユニフォームが反対側まで広がり、前に走ってできたスペースだ。
きゃあ、という女の人の歓声がせまいコートにひびきわたる。彼のファン、ではなく、ジョナの選手のお母さんたち。自分の子どもそっちのけで、彼の名前の書かれたうちわを自作するお母さんたちが何人もいた。
一人、二人、三人、四人とまたたく間にかわして残るはゴールキーパー一人。前に出ながら両手両足を大の字に広げる。シュートがその広げた両足の間を転がる。お母さんたちの歓声が耳に痛かった。
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