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「鷹、試合に集中しろ!」
空から声が降ってきた。監督だ。
「……おや、これはこれは鬼山先生。選手権優勝、おめでとうございます」
そう言ってベンチから立ち上がり、ほほえみながら体を深々と折り曲げておじぎをする。
この正月に行われた全国高校サッカー選手権でおそろしいまでの強さで優勝した青森田村高校。
そのベンチにアッコちゃんはいた。座って腕組みしたままの監督の横で立ち上がり、ベンチから飛び出してさけび、そのたびにレフェリーに注意されていたのを、カメラに何度も抜かれていた。
「ありがとうございます。で、どちら様でしたっけ」
「青森ジョナゴールド監督の、飛田真雄ですよ」
「魔王?」
はりつめた空気に、こっちのおなかが痛くなる。
「で、鬼山先生。今日はどうして弘前まで?」
監督はズボンのポケットからヒョウ柄のハンカチを取り出すと、それでメガネのレンズをふく。
「タムコーさんは、てっきり青森県の選手にはご興味ないのかと」
田村高校サッカー部は全国区だ。もちろん青森県からも多くの選手が入学するけど、レギュラーを勝ち取るためには他の46都道府県から集まってくる天才少年たちと競争しなければならない。
だから、田村高校をきらう青森の人ってけっこう多い。よそ者が青森代表づらしやがって、と。
「うちではロングスローを教えておりませんよ、サッカーは足でやるものなので」
監督がメガネをかけなおしながら、ぬめっとした視線でアッコちゃんを見下ろした。
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