じょんばけっつ(大きなおしり)

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 青森田村のサッカーは、つまらない。  選手全員がバーベルやスクワットで、ボディビルみたいにバキバキにきたえていて、高校生とは思えない体つきをしている。ボールをさわるより筋トレしてる時間のほうが長い、脳みそまで筋肉だ、なんて言われたりもする。  だからそのサッカーは筋肉をフルに活かしたものになる。相手の攻めを力ずくではね返し、うばったボールはすばやく前に大きく蹴り出す。もしボールをはじき返されても拾って、またゴール前へ。  攻められっぱなしの相手は、ひとまず流れを断ち切るためにボールをピッチの外に出すしかない。タッチラインから出たボールはスローインで再開する。両手で投げるボールはあまり飛ばないので近くの味方につなぐのがふつうだ。  けど、タムコーはふつうじゃない。  丸太のような腕、足より正確な手でキックのような速さと長さでゴール前に投げ入れるのだ。なだれのようにゴールをおとしいれるロングスローは青森田村のシンボルのようになっている。  けど、タムコーがきらいな人にとってはそのロングスローがうってつけの攻撃の対象になる。あんなサッカーに未来はない、と。 「青森県は年の半分が雪におおわれています、半年の間室内で練習するのですから、筋トレで体を作るのが合理的です」  アッコちゃんは一歩も引かない。自分より大きな監督の顔を見上げながら、まだ続ける。 「ロングスローは反則ではありません。ひきょうでもありません。くやしかったら、自分でも投げたらいい。指導者としてあらゆる批判は受け入れますが、生徒をおとしめる言葉は別です」  ピピッ、という笛が鳴る。 「試合再開していいですか?」  この試合のレフェリーは女の人だった。背は低いけど、きっちり試合をコントロールしている。
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