12人が本棚に入れています
本棚に追加
「顔上げな、金魚」
ゴールマウスの裏から声がする。
「やられたもんはしょんない。けど、どうして失点したかは考えろ。理由は一つだけじゃないはずだ」
なかなか答えられないでいると。
「こっち向け」
首だけ声のするほうにかたむける。赤と白にぬられたゴールの向こうで、アッコちゃんが両手を広げている。
「フットサルのゴールマウスは高さ2メートルこ幅3メートル。サッカーのゴールより横がずっとせまい。なのに体を倒したもんで、はみ出た手足ゴールのないところまで守っちまってたよ。他は?」
「声が小さかった」
「声の大きさだけじゃない。ただ左、って言ってもそっちに何があるのか、そしてどうしてほしいのかも言わなきゃ伝わらない。それだけ?」
「飛び出すタイミングが、おそかった」
「そこだ。さっき、何きっかけで前に出た? 監督にどなられたからだろ? なんで自分のタイミングで出ない? 本気でゴールを守りたいなら、すべて自分でしきれ。地に足をつけて、味方を動かして、出るか待つかを決めろ。キーパーなら責任から逃げるな」
足音、笛の音、かけ声。コートの上にはいろんな音が絶えずする。けど、その時だけは、アッコちゃんの声だけが私の耳にとどいた。
「あんたは、いくじなしなんかじゃない」
最初のコメントを投稿しよう!