じゃわめき(ドキドキ)

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 もう、その子の背中しか見えなかった。  その子は相手ゴール前にへばりむく。もう2点も取られているから相手はその子にひっつき虫のようになる。  その子はかけ回る。ボールは自分で持たねし、もらうためにボールのあるほうへよってたりもしね。  ただただ、動き回っていた。前へ、後ろへ、左へ、右へ。そったらムダに動いて、へづね(つかれない)のか、と心配さなるくれぇに。  相手がこっちゃのゴール前さ攻めてくる。ゴール真正面からシュートさ打とうとした。またやられる、と体が(しね)くなる。  私の前に、ぶかぶかのユニフォームが立ちはだかった。なんと顔面でシュートを止め、あお向けにひっくり返る。私は転がったボールをすぐ前に投げ、その子のところに行こうとした。  すたばって、カエル(びっき)のようにたおれてたはずのその子が、どごにもいね。  相手のゴール前に高く、炭酸(いん)がぬけたジュースみたいなぼんやりしたボールが上がる。それと同時(ふとんず)に、ぶかぶかのユニフォームが空高く飛び上がっていた。  ジャンプしたキーパーのパンチより上にその子のなずき(おでこ)があった。まるで空さ飛んでるような、しったげ高いヘディングシュートがゴールのどまん中にささったら、ベンチにいたもんまでピッチの中に入ってきた。  だども、試合が終わったわけではね。また攻められて点さ取られてはかなわね。  私だけは、その中に(へえ)れねかった。  そして、その固まりがとけた時。  その子は、消えてまってた。  まるで雪がとけたみたいに、ユニフォームだけ残して。    
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