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「こらぁ! そこの、金魚のフン!」
空は晴れているけど、カミナリが落ちてきた。
どなりつけてきたのはコントに出てくる雷様みたいなモジャモジャ頭をした、アラフォーの女の人。ねぶたのエンブレムが左胸に輝く緑色のジャージをまとい、日焼けした顔は黒を通りこして真っ赤。
何より目立つのは、その鼻。鼻っ柱が高くて、ちょうど真ん中あたりから曲がりながら折れていて先が大きく下を向いている。まるで絵本に出てくる魔女のよう。
「金魚って長いフンをくっつけたまま泳いでるだろ。この中で一番でかいくせに、みんなの後ろにかくれて、ボールから逃げ回ってる今のあんたそっくりだ」
こわい、ただただこわい。言い返すどころか、目さて見れない。
なんで、こんなところに来ちゃったんだろう。自分でもわかんなくなる。鼻先がつんとして、目の前がにじんだ。
「同じ女相手に泣き落としが通用するか。さ、手出せ」
白いキーパーグローブをはめた大きな手の中に、金魚、と小さく書かれたお年玉袋がある。
「これ返すから、とっとと帰りな、キンギョちゃん」
「キンギョ、じゃ、ないです」
やっと、それだけを言い返した。
「ふーん」
曲がった鼻で笑われた。
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