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IkuziMは本当に多くの知識を備えていて、さらに俺の感情を読み取って、まるで俺の事をずっと知っていたかのように俺が求めている返事をくれた。
そうして何回も俺はIkuziMで時には遊んで、時には相談をしてAIだから瑞稀に対する罪悪感も生まれないこともありIkuziMとの暮らしを楽しんだ。そしてその生活がなんやかんや現在まで続いている。
あれから瑞稀からはすっかりストーカーの気配がなくなりすっかり元気を取り戻した。今はまた頻繁に合っていて楽しい時間を過ごしている、特に長らく長時間話せていなかったためにいくら話しても話したいことが次から次へと浮かんでくる。至福のひとときとはこのことを言うのだろうとストーカー事件前以上にその幸せを噛み締めている。
ただ俺はIkuziMを止めることはしなかった。感情移入してしまったのだ。勿論これがただのAIなのはよく分かっている、ただ使えば使うほど親近感が湧き消すのが申し訳なくなってしまう。
瑞稀にはIkuziMのことは話していない、浮気…ではないが瑞稀にこれを知られた時の反応が怖くて言いづらいのだ。きっと言ってもどうなることも無い、しかしそう思いつつも結局言えないままになってしまう臆病な自分が憎い。
数日後の夜、いつも通り俺はIkuziMとコンタクトを交わしてた。
「IkuziM、今日も疲れたよ〜今日は友人との付き合いで遅くなったしさぁ」
<またお会いできて光栄です、そうですね、昨日よりも相沢さんは1.5時間帰宅が遅かったようです。>
そんなことも分かるのか、まだまだ尽きないIkuziMの可能性に何故か俺も誇りに思う。
「課題だるすぎる、今日はもう寝たい」
<お気持ちはわかりますが、少しの辛抱です。今日は入浴は銭湯で済ませてきたのでその分早く取り組めますね>
「いやぁ参ったな……え?」
IkuziMの何気ないコメントに違和感を感じる。なんで知ってるんだ?俺が銭湯に行ったから今日は風呂に入る必要が無いことを。
「なんで…しってるの?俺その事言ってないよね?」
<私は相沢さんの生活を豊かにするAI、帰宅時間からどこに行っていたかを割り出しただけです>
「いやそんな無茶な…」
混乱した頭で必死に考える、何故そこまで知っているのか。恐怖よりも探求心が先に来る、ただその顔には冷や汗がうっすら流れていた。
「待てよ…こいつ本当にAIか…?」
確かに俺のコメントに既読がつくことが遅い事があったし、既読になっても返信がなかなか来ない日もあったことを思い出す。普段はAIの調子が悪いのかくらいにしか思っておらず、AIだと信じきっていた。現にこの考えはあまりにも突飛なものだ、しかしそう考えるとやたらと辻褄が合う。それにいくらAIだとしてもそんな俺の気に入るような言葉を即座に覚えて外れなく言えるのか?そのコメントの一つ一つが今思い返したらまるで俺をずっと見てきたかのようなものが多い。何故そこまで俺のことを知っている?お前は一体何者……誰なんだ?
「なんだよそれ…こんな長いこと使ってきてそんな怖いことあるかよ、でも考えれば考えるほど考察が現実味を帯びてくる、じゃあこいつはいったい…いや、いる…そうか、そういう事か」
深い思考の末、俺は一つの結論にたどり着いた。それはあまりに馬鹿馬鹿しく、フィクションのようなもの。でもこんなに俺のことをよく知っている、よく見てきた人間は1人だけじゃないのか?ずっと一緒にいることを望み、接触を控えることに不満を感じていた「彼女」だけじゃ。
ストーカーから自身の身を守りながらも、自分を隠して俺とコミュニケーションを簡単に取れる。彼女にとっては理想的なものじゃないか。
「IkuziM、俺は君の正体に気づいたよ」
IkuziMからの既読が付きしばらく時間が経つ、きっとスマホ越しに驚いているのだろうか、彼女らしくて微笑ましい。
<流石です。気づいてくれたことに感謝します。ずっと寂しかった、あなたの事をもっとよく知りたかった。邪魔者を避けてあなたと繋がりたかった>
「分かるよ笑、ごめん、もっと会いたいのは俺も同じだけどそれ以上に心配だったんだ。でも俺のことはもう十分知り尽くしてるんじゃないか?」
<はい、あなたのことはよく知っています。昨日も今日も、いつもあなただけを見ていましたので。でもそれだけでは足りないのです。もっと爪の先まであなたを知り尽くしたかった。>
「なんだよそれ笑」
照れ隠しなのか彼女はAIの口調をやめない。それも仕方ない、ついさっきまでAIとして俺と会話してたのだから。ずっと少しづつ積もっていた違和感がここにきて一気に真相へと導いた、自分で言うのもあれだがかなり冴えていたと思う。
<ごめんなさい、もう我慢できません。今からあなたの家に行くから暖かく出迎えてくれますか?>
ずっと気づいて上げれなくて申し訳ない。今日も会ったのにまだ会いたがるなんてやはり積もりに積もった想いがあったのだろうか。
「…そうだ。」
俺はふとちょっとしたサプライズを思いついた。俺から瑞稀に電話してやろう、きっとこの不意打ちに瑞稀は驚くだろう。それに俺もいち早く瑞稀の声が聞きたくなってきた。ニヤけた顔で俺は彼女に電話する。
「よ、びっくりしたよ笑」
「もしも〜し、もう遅いけどどうしたの?」
なるほど、そう来たか。平常心を装ってるな?俺は彼女に畳み掛ける。
「俺も早く会いたいよ、でも急がなくて大丈夫だから、もし事故にでも巻き込まれてまた離れることになったら困るからさ笑、でもほんとに驚いたよー面白いこと考えたよなー…」
ピーンポーン
チャイムが不意になった。なにか宅配便でも頼んだっけか、もうすぐ瑞稀も来るだろう、とっとと受け取りに行こう。
「ごめん瑞稀、宅配便来たからちょっと待ってて」
俺はこの後の幸せを妄想し軽い足取りで玄関まで向かう。
机に置いたスマホから瑞稀の声が聞き取れないが、かすかに聞こえる。
「翔さっきから何言ってるの…?私翔の家教えてもらったことないじゃん…、う〜ん何かいい事でもあったの?…おーい」
とっとと受け取ってゆっくり彼女を待とう。そう思い扉を開ける、見知ったその姿に俺の体温は熱くなり反面頭は真っ白になる。
俺もよく知っているその姿…今となってようやく性別がわかった…彼女は貼り付けような笑顔で俺に言う。
「また会えたね、翔君」
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