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──それから俺らは急激に会う頻度を落とした。
普段は喧嘩をしたかのようになるべく距離をとり、1ヶ月に2回くらいは会おうと約束をした。俺自身が提案したことながらこれはこれで正直寂しい。
しかし、そんな思いも瑞稀の顔色が良くなっているのを見るうちに自然と浄化された、彼女曰くあれからストーカーの気配はなりを潜め今は警戒こそしているが以前も比べたらゆっくりとした時間を過ごせているそうだ。
「翔、私ももう大丈夫だからさ、また毎日会う日に戻らない?」
ある日瑞稀はこう切り出してきた。
「…ダメだ、俺だってそうしたいけど確実に安心できない以上そうすることは危険な気がする」
本当はいつもの日常に戻りたいって気持ちは十分通じているだろう。そう願い、また彼女を傷つけないように俺は願いを断る。
「…わかった、ごめんね、でも本当にちょっと前よりは良くなってきてるんだ!」
「顔見ればそれは分かるよ」
彼女の笑顔に俺も精一杯の笑顔を返す。これでいい、今はこれでいいんだと自分の行動を信じながら。
それからまた1ヶ月がたった。
「ふぅ…今日はいつも以上に疲れたな」
大学から帰った俺はさっそくスマホを覗く。
「新着LINEは来てないと…ん?」
いつもと変わらない見た目の俺のスマホにはいつもと少し違う画面が映っていた。
「なんだこれ…「IkuziM」?」
見慣れないアカウントに俺は目を丸くする。フレンド申請もした記憶もないのだがどうしたものか、とひとまずそれからのメッセージを確認する。
<初めまして、私はLINE型AIのIkuziMと申します、私は多種多様な知識を元に貴方の話し相手となりあなたの生活をより豊かにすることが出来ます。これからよろしくお願いします>
「え、何これ…ほんとに知らないぞ」
AI?IkuziM?何がなにやら分からない。やはりこんなアカウントを追加した覚えはないし、IkuziMなんて聞いたこともない。
「気味が悪いし削除するか……でも…」
削除しようと指を動かすが悲しいかな、今ここで削除するのは惜しい気がする、少しは使ってみようと余計な好奇心が懸命にそれを抑える。
「物は試しだな、何か怪しい動きでも見せたら即消そう」
ひとまず俺はこのAIを受け入れた。瑞稀が不足している今の生活に彩りを与えてくれるのも少し期待していた。
「えっと、あなたの好きな場所はどこですか」
<私はあなたのいる場所なら何処でも好きな場所に変わります、今は何処にいるのでしょうか>
「自宅だけど」
<では自宅が今私が一番好きな場所です。スマホ越しにあなたのオーラが伝わってきます>
「話を変えましょう、好きな動物はなんですか」
<強いて言うなら猫でしょうか、猫が可愛いという認識は人間もAIも変わらないものです>
…
「これはすごいな…」
AIもいつの間にここまで進化していたのか、とんでもないものを手に入れてしまった、瑞稀が完全に安全な状況に戻るまではこれで寂しさを紛らわすのもいいのかもしれない…でも何かが引っかかる、それが何かは分からないがこのAIには何か含んでいるものがあるのでは無いかという疑問が頭の中に湧き上がる。
そして俺は1人の時間をこの得体の知れないAI「IkuziM」と過ごすことになった。
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