モーニンググローリー・フィズ

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自然豊かな東京郊外。 広大なキャンパスの片隅に、小さな小さなカフェがある。 店内にあるのはカウンター席が2つ。 入り口の反対側にあるテラス席は、テーブルがひとつと椅子2つ。 メニューがシンプルで、スイーツのように甘いドリンクは扱っていない。 そのせいか、あまり人が寄りつかない。 食べ物はどうかというと、サンドウィッチやシュークリームなど、片手で食べられるものがほとんどだ。 コーヒーはブラック無糖一択なくせに甘い菓子が好きな俺にとっては、最高に居心地がいい場所だ。 テラス席の横には、高さが20メートルほどある大きなクスノキがあって、それに一番近い席が俺のお気に入りの場所だ。 一日の終わりにここへ来て、クスノキを見上げながらコーヒーを飲み、気分をリセットしてから帰るのが日課になっている。 サワサワと葉が擦れる音を聞きながら、一人でのんびりアイスコーヒーを飲んでいると、後ろから唐突に声をかけられた。 「ねえキミ、お酒強いんだって?」 大切な時間を邪魔されたのと偉そうな言い方にムカつきながら、首だけで声がした方を見ると、中性的な雰囲気を纏った背の高い男が一人立っていた。 「だったら何」 機嫌の悪さを隠さずに睨みながら答えると、男は一瞬怯みはしたものの「邪魔してごめん」と謝って続けた。 「仕事の練習相手になってほしいんだ」 そう俺に言ったのは麻紘(まひろ)という名の男で、顔は見知っていたけれど、まともに口をきいたのはこの時が初めてだった。
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