運命の恋人

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運命の恋人

 先生とわたしは、前世からの絆でつながった運命の恋人だったんだわ!!なんて思うほど、わたしは頭がお花畑ではなかった。  わたしは美術準備室に置いていたバッグを持って、美術室を出て、学校を出て、電車に乗って、家に帰って、階段を上り、自分の部屋へ行って、バッグを置くと、ベッドの掛け布団の上に、制服のまんま、倒れ込んで、寝た。 ――制服のポケットのスマホが鳴り続くのが、うるさくて、電源を切る。打ち上げに、さいかち屋のもんじゃ焼き、みんなで食べるはずだったから、「どこにいるの?」LINEなのは、わかってる。  静かになって、また、わたしは寝た。お母さんは、わたしを起こして、晩ごはんを食べてる時も、食べた後も、今日、あったことを、何も話さなかった。今日一日、家にいたみたいな顔をして、それか、パートに行ってたみたいな顔をして、テレビを見て、笑ってる。  だから、わたしも何もなかった顔をしてた。  次の日は、文化祭の振替え休みで、お母さんはパートでいなくて、わたしは家で一人、テレビを見続けた。スマホの電源は切ったままだった。  家の電話が1回、長く長く長く長く鳴り続けたけど、出なかった。鳴り()んだ後、しばらくして、もしかしたら空き巣の不在確認の電話だったかも!と、不安になって、玄関や、家中(いえじゅう)の窓の鍵が、ちゃんと締まっているか、確認した。全部、締まってた。  その次の日、午前中は文化祭の片付けで、午後から授業だった。わたしは「お腹が痛い」と、お母さんに言って、学校を休んだ。ウソじゃなく、本当にお腹は痛かった。この痛みは、アレだなと思って、パンツにナプキンを付けておいたら、やっぱり夜に生理が来た。鎮痛剤を飲んだ。  次の日からは学校に行ったけど、部活には行かなかった。芸術の選択授業は、書道だったので(もちろん、美術を第一希望にしていたのだが、先輩たちに聞いたところによると、書道は人気がないので、第二希望に「書道」と書いてしまうと、第二希望が優先されてしまう、らしい。)、美術室に行くこともなかった。  美術部のグループLINEからは抜けて、美術部員のLINEはブロックした。同じクラスに美術部員はいなかった。美術部員の1年生、小谷(おだに)さんと鳥居くんとは、廊下ですれ違って、手を振られたり、あいさつされたりした。無視(シカト)するほど、わたしはガキじゃない。ちゃんと手を振り返し、あいさつした。でも、話しかけられないし、こっちから話しかけもしない。田西さんは、夏合宿で告ろうと、堂前先輩をLINEで呼び出したのに、既読スルーされて、速攻、退部していた。  わたしは部活に行かず、真っすぐ家に帰ると、制服のまんま、自分の部屋のベッドの掛け布団の上に寝っ転がって、スマホで動画を見る。  自分で選ぶ必要もない。次から次へと与えられるものを眺めていればいいだけ。 「ごはんだよ」  お母さんが呼びに来たら、制服を部屋着に着替えて、階段を下りて、ごはんを食べる、テレビを見ながら。テレビも、おもしろい番組に勝手にチャンネルが切り替わればいいのに。  ごはんを食べ終わると、見たいテレビがあったら、テレビを見て、見たいテレビがなかったら、動画を見る。眠くなったら、お風呂に入って、自分の部屋へ行って、ベッドで寝る。  スマホのアラームが鳴って目が覚めて、1日は、ふりだしに戻る。
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