お正月ボケ

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お正月ボケ

 冬休み、年が明けて、お母さんの田舎へ行った。お母さんと、わたしだけ。お父さんは仕事で、弟はウザがって、来なかった。おじいちゃんは、わたしが小3の時に亡くなって、おばあちゃんは一人で住んでいる。 「ねえ、おばあちゃん、お母さんの弟さんの写真とか、絵って、ある?」  わたしは、お母さんがキッチンへ行って、いない時に、おばあちゃんに、こそこそ、聞いた。おばあちゃんは、わたしを見て、首を傾げた。 「何、言ってるの?弟なんて、いないわよ」  聞き方が悪かったかな?と思って、わたしは言い直した。 「今はいないけど。亡くなった弟さんが、」 「芽唯(めい)ちゃん、何、言ってるの?だいじょうぶ?」  おばあちゃんは心配顔で、わたしの顔を覗き込む。――わたしは、ぞわわわわっと全身、鳥肌が立った。 「ごめん。おばあちゃん、何でもない。ごめん。ヘンなこと言って」 「そうよ。弟なんていない。わたしの子は、三月(みつき)だけ。」  そう言うおばあちゃんの目から、ぼろぼろ、涙があふれる。なのに、顔は泣き顔にならなくて、普通の顔のまま、ただ涙があふれ続ける。 「ごめん。おばあちゃん、ごめん」  わたしは箱ティッシュを取って、ティッシュを出して、おばあちゃんの涙を拭く。お母さんが、お盆にお茶を載せて、リビングルームに来てしまった。 「ねえ、三月(みつき)。芽唯が、ヘンなこと言うのよ。あなたに弟がいるなんて」  わたしがティッシュで拭いたのに、おばあちゃんは涙で、びちょびちょの顔で、お母さんの方を向く。お母さんは、お盆をテーブルの上に置いて、こたつに入った。 「何、言ってるの、芽唯。お正月ボケね」 「そう。そうだね。あははは。――わたし、ちょっと、トイレ行って来る」  わたしはリビングルームを出て、ドアを閉め、冷たい床に座り込んだ。頭を抱える。こわい。こわすぎる。おばあちゃんは、お母さんの弟の――自分の息子の存在を、忘れ去ってる。
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