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ドアが、私の背中を押した。振り返ると、ドアの隙間から、お母さんが見下ろしていた。お母さんは、普通の顔をしてた。わたしは、普通の顔が、こわくてたまらなかった。
「芽唯、退いて。開けられないじゃないの」
わたしが立ち上がって退くと、お母さんはドアを開けて出て来た。わたしの腕を強く掴んで、キッチンまで連れて行く。キッチンには、小さなテーブルがあって、お母さんは掴んでた腕を離すと、イスに座り、わたしは、立ったままでいた。
「ごめん、お母さん、わたし、」
「何で、おばあちゃんに、そんなこと言ったの?」
「弟さんの写真とか、絵とか見たら、」
「そんなのない。全部、お母さんが――おばあちゃんが、捨てちゃったの」
「そんな……」
わたしは体が震えて、ガチガチ、奥歯がぶつかり合って音を立てる。――お母さんの弟の写真を、絵を見たら、生まれ変わりなんて言われるほど、似てないよ。って思えるかもしれないって、思ったのに。
「うちの玄関にある絵はね、お父さんが五月からもらった絵なの。それしか残ってないの」
お母さんはテーブルに両肘をつき、両手で顔を覆う。
「五月が亡くなって、わたしたちは、つらくて、どうしようもなくて、わたしも、お母さんも、――おばあちゃんも、おじいちゃんも、どうしたらいいのか、わからなくて、おばあちゃんは、五月を最初から、いないことにするしかできなかった。それを、おじいちゃんも、わたしも、受け入れるしかなかった」
「お母さん、ごめん。本当に、ごめんなさい」
わたしは、謝ることしかできなかった。お母さんは、頭を横に振る。
「わたしも。あなたを妊娠した時、五月が帰って来てくれたって、わたしは思った」
「お母さん……」
「あなたが絵が上手なのも、五月の生まれ変わりだから。って思ってた。そんなこと有り得ない。あるわけない。そんなことない。わかっていても。」
「そんなのわかんないよ!」
わたしは、叫んでた。ずっと言いたかったことが、喉の奥から、お腹の中から、勝手に口から出て行く。
「前世の記憶とかあったら、納得するけど。そんなの、ないもん。わたしが描く絵、似てるの?同じなの?顔が似てたって、お母さんの弟と、お母さんの娘が、血がつながってて、似てて、当たり前だよね?わたしが、お母さんの弟の生まれ変わりだから、絵が上手いの?私の人生、お母さんの弟の続きなの?これ、わたしの意志じゃないの?わたしは、わたしじゃないの?」
「ごめん。ごめんね、芽唯」
両手で顔を覆ったまま、お母さんは、くぐもった声で言う。
「芽唯は、芽唯だよ。わかってる…わかってるの……」
「わかってないよ!全然、わかってない!」
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