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夏休みの予定
お母さんが、美術部の夏合宿の参加承諾書を書いてくれない。正確に言うと、お母さんに参加承諾書を取り上げられて、お父さんに書いてもらえない。
「前々から、検査の予約、取ってるんだから、仕方ないでしょ」
わたしと弟は毎年、夏休みに、病院で検査を受けていた。お母さんの弟が、中2の時に病気が見付かって、高3の時に亡くなったから、一瞬でも早く病気を見付けるためだ。今のところ、高1のわたしも、中2の弟も、悪いところが見付かったことはない。
だからって、「どうせ悪いとこなんか見付かんないんだから、1年くらい検査スルーしたって、いいじゃん」なんて言ったら、お母さんがマジギレするのは、わたしも弟も、経験済である。
「お父さ~ん、検査の日にち、ずらせない?」
お母さんVSわたしの対決に無関係な顔して、青葉とテレビを見てるお父さんを巻き込む。
「そういうズルはダメだよ、芽唯」
テレビを見たまんま、お父さんが言う。わたしは言い返す。
「お父さんの権力で、日にち、ずらそうとか言うんじゃなくて、」
「権力なんかないよ」
お父さんが笑う。検査するのは、お父さんが勤務してる大学病院なのだ。『大学病院の医師』とかいうと、権力、持ってそうだけど、うちのお父さんにはないことくらい、知ってる。
「他に予約、取れる日がないかなって話。」
「それは、調べてみなくもない」
「そんな、あなた、1年前から予約、入れさせてもらってるのに、変えるなんて…」
「まあまあ。」
お父さんは、お母さんの方を向いて、なだめると、わたしの方を向いた。
「夏休み中の他の日に、変更できなかったら、合宿はあきらめて、検査を受ける。――いいな?」
「……………………わかった」
お父さんも「1年くらい、検査スルーしたって」とは、言わない。お母さんの弟が入院してた病院で、お父さんは研修医をしていて、知り合ったんだそうだ。
「お前たちが検査を受けて、元気だってわかるだけで、お母さんは安心できるんだから、まあ、親孝行だと思って。な?」
わたしも弟も、お父さんに言い聞かされている。
――次の日。お父さんは、夏合宿の次の週に検査の日を変えてくれて、参加承諾書を書いてくれた。
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