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空の色
「失敗した」
二浪さんが言って、先生を振り返った。二浪さんの絵は、下描きも、下塗りも終わって、色を塗り始めてた。
「だから、絵を描くの、『急ぎすぎるな』って、言ったろ~?」
わたしの隣で、麦わら帽子にクローバーの花冠を乗っけたおっさんが笑う。堂前先輩が作って、先生の麦わら帽子に乗っけたのを、田西さんが、めっちゃ欲しがってる顔をしてることを、先生なら、察せ。
二浪さんは「失敗した」。わたしは、まだ絵を描き始めていなくてよかったと、思った。
池のある風景は、夕日に色を塗り替えられていた。山と山の間から射し込む橙色の夕日に照らされて、黄金色に、きらきら輝く池の水面。明るい緑だった草むらは、深い濃い緑。空は、茜色のグラデーション。
「色に名前を付けるな」
先生が言った。
わたしは、両目を見開き、ただ空を見上げ続けた。
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