BAR ルトロヴァイユ

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 長年お店をしていると、懐かしい方にまたお会いできる事に喜びを感じます。  カラン…。  かすかに店の扉が開く音がした。 「いらっしゃいませ」  私はグラスを磨く手を止め、お客様を歓迎する。 「こんばんは、マスター」  スーツを着ていてもわかる、中年…とは言い難いほどに引き締まった身体の男性はカウンターに腰掛ける。 「こんばんは、山上様。今日はお早いですね」  時計は18時半を指している。  週半ばとはいえ、こんな時間では他にお客様はいらしていない。 「今日、ここで彼女と待ち合わせをしているんだ」  山上様は少し困った顔をして笑う。 「あぁ…、ご連絡がついたのですね」  私はホッとした。  3日前、山上様は十数年振りにこの店『BAR ルトロヴァイユ』に来店された。 「マスター、また会えて嬉しいよ。…あの時一緒だった彼女がここに来ることはあるかい?」  山上様はいつも、ある女性との待ち合わせにこの店を利用してくださっていた。  黒いロングヘアーの、可愛らしい女性だった。  彼女は社会人で、山上様は学生だったということが会話から察することが出来た。  ある日、このカウンターで山上様は彼女に別れを告げた。  後日わかった事だが、その日は彼女の誕生日だった。  その日以来、彼女は毎日のように来店しては『ブラッシング ミモザ』を1杯、少しずつ飲みながら来ることのない山上様を待った。  そして、彼女のグラスが空き、静かに涙を流し始める頃になると決まってひとりの男性が彼女を迎えに来ていた。  その男性から、自分は山上様の親友だと伺った。  そんな日が数ヶ月続き…彼女はパッタリと姿を見せなくなった。
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