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メロスが部屋へ戻った後、イオの部屋の扉が開く。
「お美しいですよ、ガラニス様」
出迎えの黒髪の女中が、臙脂色のレースを手ににっこりと微笑む。
「お首元失礼いたします」
お願いします、とイオはされるがまま、首の痣を赤いレースの糸帯で覆い隠される。黒を血の色で覆い隠すなんて、なんとも皮肉が効いているとイオは笑いそうになった。
「大丈夫ですか?」
「はい、少しくすぐったく感じただけです」
「左様でございますか、では、最後にこちらを」
「……はい」
仕上げに渡されたのは目隠しであった。表はレースが、内側はベルベットの生地があしらわれた、黒い目隠し。イオは躊躇なく自ら身に着ける。
「この頃、目隠しされてばかりです。まあ…開いてても閉じていても、大して見えやしないんですけれどねえ」
女中はイオの独り言に答えることなく、彼の手を取り導き始める。階段を降り、一階のエントランスホールを過ぎ、奥の別の階段から、また下へ。
徐々に人の気配が近付いてくる。
「ガラニス様」
「…はい」
「旦那様が参ります、このままお待ちを」
「ありがとうございます」
どこかで立ち止まり、女中の手が離れていった。足にまとわりつく、軽やかな布地のドレスは普段着る服と同じものとは思えない。
上腕まで覆い隠す艶のあるグローブ。首元から胸下までをレースで覆い、肋から腰はコルセットで固められている。下着には貞操帯が用意されて、イオが男の部分を昂ぶらせれば痛みで罰せられる。しかし後ろはひもが一本通っているだけという有様だ。そんな下半身は三重に重ねられた柔らかなスカートのドレープに覆い隠されている。
「おう、ガラニス」
低く強い声が響き、肩が抱き寄せられた。男の、がさつな印象とは裏腹によく手入れのされた滑らかな太い指が顎を掴む。
「閣下、お待たせいたしました」
雀斑が浮き上がったイオの頬を親指がなで、頬を包んだ。
「楽しめ。開き直れ。お前の腹の底を晒してみろ」
ヴラドの台詞に、イオは曖昧に笑うと咎めるように乳首が抓り上げられた。
「いっ…う」
「まあいい。もう薬は使わせねぇ。んん? 客を白けさせるな、そんなこともできねえようなら、他の奴を探す」
「――あ…ありがとう…ございます」
イオの声が、少し強ばった。
呼吸が浅く、肩に力が入っているのもヴラドには容易く見て取れる。
「……田舎の爺に薬使われたことなんかねえだろう。ハッ! 何今更硬くなってやがる、んん?」
いくぞ、とヴラドがイオを部屋へと導いた。
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