Ⅱ.ライオネス別邸の饗宴・前編(R18)

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Ⅱ.ライオネス別邸の饗宴・前編(R18)

 栗鼠の町(スキロシア)から、南西の豹の町(パンシャ)へ馬を駆り走ること三日。早馬に慣れないイオは豹の町(パンシャ)の入り口で馬から下りるとたちまち青い顔をしてしゃがみこんでしまった。 「……大丈夫、じゃなさそうだな」 「う……ごめ…」 「お困りのようですな、お二方」  ぶるるるっと首をふる馬の傍らで膝を着いたっきり立てなくなってしまったイオ。と、其処へ一人の男が近づいて来て恭しくメロスへと一礼する。外套を着ては居るが首は太く、体捌きに無駄がないのがメロスにもわかった。 「お初にお目にかかりますオルメロス銅三級騎士。我が主人ヴラド=ライオネスよりお二人の案内を仰せつかっております」  男は続いて名を名乗り顔を上げる。メロスよりも小柄だが、父親辺りと同世代のように見て取れた。 「お世話になります。早速で申し訳ないのですがイオが――」 「はい、おまかせを」  言うが早いか青い顔を上げたイオは案内役の肩へ俵抱きに担ぎ上げられる。 「ぐふっ」  その衝撃がトドメとなりグッタリと手足を伸ばしたイオを見て男は「鍛え方が足りない様ですな」と笑う。そうなるとメロスはしみじみと頷くしかないのだった。  豹の町(パンシャ)は地元に比べると石造りの四角い建物が多く、道行く人の数も多かった。眠り竜(キミズドラクシャ)と呼ばれる連峰の南端に近く山の産業に関わる商会の会議所も有るため、町を行き交う男たちは体格の良い――というか荒っぽい空気を纏う者が少なからず見受けられた。  その町の奥、二人が連れて行かれたのは大通りに面した立派な一軒。頑強な門扉にライオネス家の紋章が飾られた屋敷であった。メロスやマリーの家など比べるべくもない邸宅である。 「――……いや…俺達は。おいイオ、イオ」  てっきり町の宿に泊まるのだと思っていたメロスは、グッタリと手足を伸ばして居るイオの頭を小突く。 「うあ……何だよぉ…メロス……僕はまだお腹の中がひっちゃかめっちゃか…」  早馬の上下運動に散々体を揺さぶられてぐったりしたままのイオはそのまま屋敷の中へと連れて行かれてしまう。となるとメロスもついて行かないわけに行かず、歩を進めた。 「オルメロス様は突き当たり奥のお部屋になります」  通路の一番手前の部屋へとイオは寝かせられ、メロスは同じ通路の突き当たりの部屋を案内される。 「いや、イオと同じ部屋で構わないのだが」  メロスは別室を辞退しようとしたが、男は笑みを浮かべたままその申し出を断った。 「主人からの言いつけでございますので何卒」  次の次、三時の鐘の時に茶を出すのでまた呼びに来ると言われてメロスは部屋に半ば押し込められた。 「……はぁ」  メロスは部屋でガシガシと頭を掻くが、ここはヴラド卿の腹の中のようなもの。諦めて荷物を下ろし客用のベッドに腰を下ろした。 「財務顧問のヴラド卿。……本当に信じて良いんだろうか。いや、誰を信じるかは俺自身で決めないとな」  ぱん、と両手で自らの頬を叩いて気合を入れる。  イオギオスとともに帰る。その為に自分で見て考えなければいけない。せめて情報収集になればと、メロスは時間まで町を歩くことにした。
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