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――一方。
「ハッ ひっ」
横に寝かされていたイオも目を覚ました。視界に入る梁のない天井。
彼は眠っている間、首に巻いた襟巻きを強く握り締めていた。
「はあっ……はぁ……う……」
ゆっくりと手を開き、直前迄見ていた悪夢を思い出して顔を顰めた。
あの夜の夢だった。
魔法が使えるようになって、はしゃいでいた自分。ある日から不安定になっていった父と母。最後に見た生前の父は、血走った眼でイオを睨みつけながら、両手で息子の首を絞め殺めようとして。
「……ああもう」
この頃は眠る度に酷い夢を見ていた。これから、また自分よりも上手の策略家と腹の探り合いをしなければならないというのに、過去から伸びる黒い影がまた首を絞めようとしている。
ふと横を見ると、寝台の脇卓に一通の手紙が置かれていた。雇い主からの連絡であるらしい。
「……三時からお茶、五時に夕食、八時から僕は閣下の野鳥観察仲間との歓談ねぇ……それで、僕はこれで歓談の『お仕度』をしろってことかなぁ」
よく磨かれた脇卓の引き出しは滑らかに滑り、中にはモスグリーンのドレスと、張り型に潤滑油の瓶、薬の入った小壺が行儀よく並んでいた。
ボタンの千切れたシャツを『嫌な思い出』と言った男がまたこんな物を用意しておいて、よく言ったものだと鼻で笑う。
「わかりましたよ。でも僕は子供じゃない。……僕は、貴方達の掌の上で磨り潰されたりしない」
長いものに巻かれることを選び続ける生き方を恥じるのは止めだ。イオはベルトに手をかけて、服を脱ぎ始めた。
なれない連日の、しかも早馬乗りで内腿から下腿が擦れて痛い。メロスが何度かコツを教えてくれたが、慣れない姿勢の維持は身体を疲れさせた。
「こんな体で、また閣下のドでかいのを相手しろだなんて……呼びつけておいて酷い話だよねぇ」
部屋には鍵がかかっていることは既に確認を済ませていた。部屋にあった椅子に片足を乗せて、手に潤滑油を垂らす。
「ん……ふ……」
足の間から手を回して、自分の性器の下を撫でて蟻の戸渡りから尻の谷間、菊座へと指で触れる。
感じたくないから、思い浮かべるのは人生の最悪な日のこと。部屋の中に蜂が飛び込んできて刺された時だとか、子供の頃に父親だと思って駆け寄ったら全くの別人で恥ずかしくて泣いたこととか。そういう記憶で気を紛らわしながらただの作業として窄まった肉穴を解す。
「く……ぁ…ッ……」
ちゅく……にちゅ、ちゅくちゅく……。
一度も好きな人に抱かれる想像をしたことはない。
そんなことになる前に背を向けるか、本気で怒る彼の姿しかイオには想像ができない。
「は……もう、いいかな…ッふ……はぁ…――くぁ…」
ぐぷ……♡と張り型を尻穴に飲み込んで、下から押し上げる。上手くやればこれで快楽を得る方法も知っているが、このあとの予定を考えるとそれは嫌だった。絶対に。
「ふ、ぅ うあ…… は…」
こみ上げる圧迫感に喉を反らして息を逃し、眉根を寄せながらもう一息張り型を押し込む。
「んあっ」
ぐぷ♡と奥の括れを押し上げる固く冷たい異物に涙が滲み、目頭が熱くなった。
「…な…くな……泣くなよ、イオギオス――悔しかったら…笑って……ぇ」
は、は、と息をつき、持ち手だけを尻から垂らして再び下着に足を通す。何事もなかったかのように上から服を着て、呼び出しの時間まで貴重な硝子が使われた窓辺で頭を冷やして過ごすことにした。
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