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『窮奇。後からやってきて、図々しいぞ』 『渾沌、お前こそ欲張り過ぎだぞ。この庭に訪れた花嫁には、その者の願いと引き換えに等しく情けを与えることが許されている。そうでなければ、我らはまた神格を失うのだからな』  クツクツと白銀の虎――窮奇が哂った。    『貴様一人だけ堕ちれば良かろう。別に、人の世がどうなろうと貴様がどうなろうと、私の関与することではない』  まだ言い合いを続けている二頭だが、何故か璃宇の両脇にそれぞれやってきて固まり、璃宇を挟んで喧嘩を続ける格好になった。唸り声を上げた黒灰の狼――渾沌の大きな耳の後ろを璃宇が軽く撫でると、『む?』と大狼はまんざらでもなさそうな声を出した。 (こちらが本当の姿、ということなのか?) 『おい。渾沌だけ贔屓するのか?』  大きな白銀の虎が唸り、璃宇の空いている方の手のひらを自分の頭に載せるためにか、グイグイと頭を押し付けてくる。大きな成りをした狼と虎が、璃宇を潰さぬように力を加減しているのも分かって、璃宇は笑いながら窮奇の背中も思い切って撫でてやる。毛並みにそって撫でているうちに、禍々しい光を帯びていた目を心地よさそうに閉じていて、本当に大きな猫といった感じだ。 「硬い手のひらというのも、存外悪くはないな」  柔らかな毛並みを撫でていたはずの璃宇の手を、人の姿に戻った窮奇が掴んだ。 「我らの本性を見ても、顔色一つ変えないのも良い」  渾沌も人の姿に戻り、璃宇の手首に口づけてくる。再び、音もなく静かに天蓋で囲まれたのが分かった。先ほど、獣たちがいがみ合っている時の方が平穏でいられたかもしれない。何故か楽し気に独りごちた渾沌が、きっちりと結われていた璃宇の後ろ髪を解いてきて――それが、合図となった。   「――ん、……ッ」  窮奇から深く口づけられているうちに、肌着の裾からどちらかの手のひらが璃宇の大腿に触れてくる。 「璃宇。羞恥を覚える必要はない。素直に、我らの精を受け取ると良い」  この庭に降りて渾沌に触れられたあの時から、甘い蟲毒を少しずつ注ぎ込まれていたのだろうか。窮奇と渾沌の二人からどういう意味で求められているのか、鈍い璃宇がようやく気づいて慌て始めても、男たちは悠然と笑うばかりだ。二人から口づけと共に甘い刺激をたっぷりと与えられ、蕩けそうになる。 「く……喰らうだの何だのと言っていたのに、どうしてこんな……」 「喰らわれるつもりではあったのだろう? 良い覚悟だ」  普段なら想像もできない場所を、丁寧に解されていく。渾沌に返された言葉の意味を考えたいのに、痛みの一欠けらもなくしとどに濡らされたその場所に熱く硬いものを感じて――堪らずに漏れでた小さな喘ぎは、呆気なく奪われた。 「苦しくは……なさそうだな」  仰向けのまま、正常位で迎え入れることになった渾沌のものが、ゆっくりと璃宇の中へと入り込んでくる。男が言う通り、苦しくはない。ずっと焦らされながら弄られていたせいか、甘い疼きをもたらす場所を狙って擦りあげてくる男の動きに、涙が勝手に浮かんでくるくらいで。 「最初に可愛がってやれなかったのが残念だ。最初に見つけたのが俺だったらな」  すぐ側で楽し気に笑う窮奇を見やると、「私を見ろ」と渾沌に優しく叱られてしまう。 「渾沌。璃宇は混乱しているんだ、もっと優しくしてやれよ。そして璃宇。俺たちがお前の身体を求めるのは、意味あってのことなんだよ」 「ッ、……いみ、とは」  自身も深衣を寛げた渾沌に段々と激しく侵されながらも、璃宇が必死に問い返す。そんな璃宇に口づけてきた窮奇だったが、「後でまた教えてやろう」と悪戯気に笑うばかりだ。 「ん……っ、こんな……、……ああッ」 「璃宇。俺の名前は呼んでくれないのか?」  何かの感覚が麻痺させられているのか――それとも、身体を作り替えられてしまったのか。焦らす動きから、荒ぶった突き上げに変わっても『もっと欲しい』と貪欲になっていくのを止められそうにない。「きゅうき」と白銀の髪をした男の名を呼んでみる。  すると、すぐに「黙っていろ」と渾沌が低い声で囁いてきて。  一層激しくなる動きと二人の雄に翻弄されながら、己の中で渾沌が果てる感触に璃宇はあえかに喘ぎ、目をとじた。  意識を手放したことは、璃宇が生きてきた中でほぼ経験がないことだ。そして今回も僅かな時間であったはず。それなのに、次に瞼を開けると天井のあるところ――そしてふかふかとした寝具に璃宇は横たわっていた。 (……すごく柔らかい)  そのふかふかは暖かくて、たまに動く。スピスピ、と小さな寝息も聞こえてきて、璃宇は目を瞬かせた。 「ええと……窮奇?」  目をとじ、璃宇の傍らに寝そべっているのは、大きな白銀の毛並みをした虎だ。ふかふかとした感触の正体を知り、声をかけたものの大きな獣はまだ微睡んでいる。  猫そのものといった寝顔。  璃宇自身も横たわったまま、彼の鼻づらを撫でたり、立派な縞模様で彩られた額を撫でているうちに、ピクりと耳が動いた。 「あ、すまな――」  眠りを邪魔してしまったことを謝ろうとした璃宇の頭上に、のそりと窮奇がその顎を乗せてきた。毛づくろいのつもりなのか、耳のあたりをザラザラとした舌で舐められて、璃宇は肩を竦めて笑ってしまった。思ったよりも細やかに――次第にはうなじまで温かな感触に襲われ、無意識に高い声が出てしまった。 「目が覚めてすぐ、誘ってくれるとは嬉しいな」  人の姿になった窮奇が笑いながら璃宇の前髪をかき上げ、口づけてくる。「違う」と璃宇が否定をしても、もう遅かった。
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