05

1/1
前へ
/7ページ
次へ

05

「……アッ……んぅ、……やめ……ッ!」  先ほどまで璃宇の中を蹂躙していた渾沌のものとは違う雄のものが、璃宇の良いところをわざとらしく虐めながら入り込んでくる。無意識に逃げ出そうとした璃宇の引き締まった腰を、尋常ならない力で後ろから抱き込まれ、相手のものを後孔で銜えて座り込む格好になった。自重のせいで、深いところまで男のものを受け入れてしまう。 「っ……アァッ!! そ、こ……だめ……だ」 「俺の方が身体の相性が良いんじゃないのか? ほら、璃宇の一番奥まで当たっているだろう……気持ちいい?」  決して、激しくはない。緩やかと言ってもいいくらいの動き。「きもちいい」と返すと背後で窮奇が笑う。「渾沌は」と璃宇が問いかけると、陽光が差し込み始めた部屋が翳り、窮奇に突き上げられている璃宇の前に幾分軽装になった渾沌が現れた。  耳は低く伏せられていて、目は怒っている。 「窮奇。璃宇が起きるまでは房事は控えよと言ったはずだが」 「お前だけの嫁じゃないんだぞ、旦那気取りはやめろよ。それに、璃宇もこんなに悦んでいる。ちゃーんと璃宇が起きるまで、良い子で待っていたさ」  なあ、と背後から伸びてきた男の手に捉えられ、深く口づけられる。  そんな璃宇の首筋に渾沌も口づけてきて、またしても男二人に挟まれてしまった。 「存外、男の妻というのもいいな。身体は丈夫そうなのに、手酷く抱いたら壊れそうだ。いちいち、自分の愉悦に気づくのに遅いところも可愛くて良い。誘うのが無意識なところも」 「璃宇。こちらにおいで」  渾沌に耳元で名を呼ばれると、手が勝手に動いて黒灰の逞しい男の背を抱きしめていた。小さく笑う気配がして、渾沌に抱きしめ返される。  腰が浮いて「おい」と窮奇が怒りや焦りを感じさせる声を発した。 「どうせすぐに達する貴様では、璃宇を満足させられぬ」 「いや? 璃宇は俺の体を気に入ったのだ。渾沌は一度が長いからな」  自信に満ちた窮奇の声と共に、渾沌に抱きしめられたまま背後から激しく抽挿されて、璃宇は自身を渾沌の衣装へと擦りつけてしまった。謝るよりも先に、緩く勃ち上がっていた璃宇自身を渾沌の長い指が捉え、扱いてくる。  喘ぐ合間合間に二人から代わる代わる口づけを求められて、璃宇は何度となく達せられることとなるのだった。 ***  長い交わりの後。  眠気で朦朧としているうちに清拭され、衣装も整えられて、次に目が覚めると天井付きの寝台――牀榻の中で寝かされていた。少し、微睡んでいたらしい。牀榻の天井からかけられていた薄い布が開く音ではっきりと目が覚める。   顔を出したのは渾沌で、彼が自ら差し入れてくれた甘茶を飲むと、僅かに感じていた気怠さが消えていくのを感じた。  隣に腰かけてきた渾沌の尾が揺れる。  狼そのものの黒灰の毛並みを撫でると、驚くくらい端整な顔立ちに微笑が浮かび、ふっと綻んだ。 「我らの本性の方が気に入りみたいだな」 「ああ、好きだ。ここに二つの姿を持って住むのは――意味があるのか?」    唐突に話しかけてきた渾沌に、彼の尾を離せないまま急いで相槌を打つ。ようやくこの邸と、その主のことが分かるかも、と。 「今は神としての名と姿を預けられ、人に害を成さぬことと戒められている。そして『花嫁』から告げられる願いを叶えることで、神としての責務を果たしたと認められる仕組みだ。願いの内容を聞くのを後回しにしてまったのは、今回が初めてだが」  璃宇の唇に、渾沌が口づけてくる。また淫猥な気持ちになりかけたところで、「いい加減にしろよ、渾沌。いい加減約束を果たす時間だ」と窮奇まで顔を出してきた。 「璃宇ちゃーん、お待たせ。悪どいオオカミのことは放っておいて、この窮奇サマが璃宇ちゃんの願いを叶えてあげましょう。さあ、どんな願いを持ってこの地へ来たんだ?」 「璃宇。私の方がより強い神力を持っている。其方が望むのなら玉座でも富貴でも、何でも与えよう」  ――願い事が、無事に叶いますように。  狐面の少年もそう言っていた。しかし、璃宇にはここまで来た経緯が何故かすっぽりと抜け落ちている。何かはあったと思うのだが。 「願いなんて、俺には別段ないが……」 「いや。自身のものであれ他者のものであれ、願いのない者はこちら側に辿り着くこともできないんだよ。思い出してもらわなきゃ困る」  窮奇に問われて、頭を悩ませ始めた璃宇の視界にあの小さな蝙蝠が入って来た。そのままひょいっと璃宇の手の中に飛び込むと、璃宇の腕に置かれていた窮奇の尾をペシンと払い、ちゃっかりと自分が留まる。そうして、くい、と璃宇が付けていた腕輪を小さな鉤爪で引っ張って来た。その腕輪も見覚えはないのだが、こちらの邸で着替える前から身に着けていたものだ。 「饕餮(とうてつ)。お前まで璃宇にくっついて……んん? その腕輪、見たことがあるな。西方の国では死者の装具として着けるんじゃなかったか」 「硝国から来たと名乗っていたな。その腕輪から、お前をこの地に送り込んだ者が分かるかもしれない。わざわざ死者の装具を身に着けさせるとは随分手厚いことだ」  渾沌の節ばった長い指が、璃宇の手を取った。今までになく禍々しい笑みを浮かべた渾沌の瞳の色が変わる。瞬きをするごとに璃宇の周囲は景色を変えていき、座り込んだまま、またどこか別の建物の中へと移動をしていた。 「おい、俺にも事情を説明しろよ、渾沌。ここはどこだ?!」 「璃宇を我らの場所まで送り出した者の居住。僅かだが、臭いが残っていた」   さすが犬だな、と窮奇が感嘆の声を出し、渾沌が虎の尾を思いっきり踏んづけるのが見えた。またしても喧嘩をする二人を放置して、璃宇は周囲を見回す。小さな霊廟だ。四柱の祀られている神の名は、分からない。扉は力をそれほど加えなくても簡単に開いて、眩しい陽光が璃宇の視界を白くした。 「待て、ここを出てはならない」  そう告げたのは、どちらの声だったのか。  振り返ると、彼ら――渾沌や窮奇たちが付いてくる様子も、気配もなくなっていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加